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にゃー、と耳元で馴染みの声がする。
その後に、妙に湿った何かがおれの頬を撫でた。
ぺろぺろ。
・・・んー、何だよ擽ったい・・・。
「にゃおあおぅ・・・」
ん?何だ今の変な鳴き声は。
おれはゆっくりと瞼を持ち上げてみる。
最初に視界に入ったのは、鬱蒼と茂った森の木々。
そして、少しだけその視線を横にずらすと。
「・・・・ふぎゃーっ?!」
何だこれはーッッ!?
目の前に頓挫する生物に、おれは叫んだ。・・・・はずだよな?
なのになんだよ、さっきから。言語が全く耳に入ってこないんですけど?
あーあーあー、マイクテスッ?
「にゃぁーぁーぁー、なぁご?」
・・・・なんで猫語になってるの?!
うそウソっちょっと待てよ!おれ猫になっちゃったの、もしかして?!
改めて自分の手やら足やら、体全体やらを見て猫じゃないことを確認する。
そう、猫じゃぁない。猫じゃないんだけど・・・この手は何?
三つ又に分かれた指の先には鋭く尖った爪。
足も同様で、肌は頑丈なうろこが覆っている。
・・・・どういうこと?
「?!」
思わず首を傾げると、横からまたぺろんと舐められた。
なになに?!
そちらの方向に視線を向ければ、そこには巨大な竜が。
「にゃぁ」
・・・・にゃぁ?今、にゃぁとお鳴きになりました?
にゃぁは猫だろ?!目の前にいるのはどう見たって竜だろ!!
何で竜がにゃぁなんて鳴いて・・・・待てよ?
おれたしかスタツアしたんだよな。そんで、何やらどっかの森の中の湖に落とされて・・・。
そこまで記憶を辿って、漸くことの成り行きを思い出す。
地球で草野球の練習中にファウルボールが川に落ちて、それを拾いに行ったらみごと3ヶ月ぶりにスタツアってしまったのだ。
今回は、恐らく眞魔国内であろう森の中の湖に通じていて、岸に泳ぎ着いた途端腹が鳴って何か食いもの無いかなーと森の中を物色中に黄緑色の実を発見して、まぁ大丈夫だろうと食ったらあまりの不味さに卒倒したのだった。
で、目を覚ましたらこの有様、と。
しかし・・・どうしておれ、竜になっちゃってんの?
確か、にゃーと鳴く竜には見覚え・・・じゃなくて、聞き覚えがあるぞ。
何つったっけかなー・・・ゾロモロス・・・ゾモサモル・・・あ、ゾモサモリ竜だ!・・・あれ?違う?ゾモサ、ゴリ?だっけ。
違う違うと横にいた竜に首を振られて、おれはもう一度確認する。
ゾ モ サ ゴ リ。おっけー?
今度は満足げに頷いて、にゃーと鳴かれた。
いつかの話じゃ、ゾモサゴリ竜は幼獣でも凶暴って話じゃなかったか?
だが今目の前にいる竜はとても温厚そうに見える。おれの姿もゾモサゴリだからか?
と、うんうん唸っていたおれに、横にいた竜が擦り寄ってきた。
「坊や。」
「・・・坊や?!」
補正しておくが、あくまで会話はにゃーにゃー語だ。
どうやらメスの竜らしいそのゾモサゴリは、おれに擦り寄ってはぺろぺろと舐めまわした。
「く、擽ってーッ」
「坊や、お腹は空いてない?あれほど人のいる湖には近づいちゃいけないって言ったのに」
えーとえーと、取り敢えず謝っとくべき・・・?
「ご、ごめん、なさい」
しどろもどろに答えるおれに、彼女(で、いいのかな?)は微かに笑ったように見えた。
散々人を舐めまくった彼女は、そのままおれを促して湖から歩き出す。
「ここは人が入ってきやすいの。もちろん魔族もね。さっきも愚かな魔族が何人か入ってきたわ。見つかる前に早く離れましょう」
「あ・・・でも」
「魔族も人も、私たちを見れば攻撃してくるわ。だから早く」
彼女の言う"愚かな魔族"が直感的にコンラッドたちだとわかったおれは何とかここに留まりたかったのだが、この姿で会ったとして果たして気付いてもらえるのか。
結局、促されるままおれは湖から離れた。
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