永遠の絆



 どうしてこんなことに・・・。



「ぅ・・・っ」
 投げ出した四肢が重い。
 気づいたここは何処だろうと考え、暫くしてよく見知った部屋だと認識する。

 途端、胸に渦巻く後悔と恐怖。

 痛む身体を動かして、天井から視線を外すと瞼を閉ざす。
 瞼裏に浮かぶは悪夢ばかりで、ここ数日まともに睡眠も取れた試しはなかった。
「・・・・・・」
 口先に上らせた名は、音には鳴らずに闇に溶ける。
 あれから、彼は何処へ行ってしまったのか。
 全ての気力を無くし、起き上がることも出来ず、あの日からずっとこの部屋で過ごしている。

 この、汚れた身体を呪う日が続いている・・・。









「え?城下に?」
「ええ、最近行っていないでしょう?謁見や書類が溜まっていたし、何よりあなたが戻ってきたのも半年振りですからね。」
「うぅ・・・それを言うなよぉ・・・」
「すみません」
 爽やかな笑顔と共に謝罪が述べられる。
 すまないといいつつ、その表情からは悪びれた様子はさっぱり見られない。
 ぷくっと頬を膨らませユーリはそんなコンラッドを睨み上げたが、そっと頬を慈しみながら撫でられて朱色に染める。
「・・・でも、いいの?」
「だからお忍び。こういうのも久々でしょう?」
「えへへっやった!」
 終えた書類を手に持ったコンラッドは、「では、これを置いてきますね」と言って執務室を出て行く。
 その間に自分はプライベートルームへと取って返し、お忍び用の服へと着替えて髪を染め、うきうきとコンラッドが来るのをベッドに座って待っている。
「お待たせしました。ああ、用意は出来ているようですね。じゃぁあとはコンタクトだけかな。」
「やって?」
 ん、とテーブルに置いておいたケースを手渡し、にっこり微笑む。
 コンラッドは微苦笑を零しつつケースを受け取ると、ユーリの細い頤(おとがい)を指にかけて上向かせる。
「じゃぁ、いつも通りに俺を見てて?」
「ん」
 真っ直ぐに見つめてくる瞳に笑いかけ、水で濡らした人差し指の先に色つきガラスを乗せるとユーリの瞳へそっと宛がう。
 瞬間、ユーリの瞼がふるりと震えた。
「もう少し我慢」
 撫で付けるように瞳の上で動かし、漆黒の美しい色をガラスの色で覆い隠すと指を離す。
「はい、瞬きしてみて?痛くない?」
「んー・・・うんっ大丈夫!」
「ではもう片方も」
 同じように付けてやり、黒い色を覆い隠す。
 茶色い髪に茶色の瞳。
 これで何処からどう見ても誰もユーリが「魔王」だとは気づかない。
 気づかないが、ユーリの美しさだけはどうしようとも隠せるものではなく。
「お願いだから、俺から離れないで下さいね。」
「わーかってるって。ホント、心配性なんだから。」
 コロコロと鈴を転がすように笑い声を立て、ユーリはコンラッドの胸をポンと叩いた。
 そんな彼に苦笑を浮かべつつも頷き返すのがいつも。

 それから人目を盗んで厩舎まで赴き、世話役にナイショねと言ってコンラッドの愛馬にタンデム。
「市場、相変わらず賑やかなんだろうなぁ。」
「ええ。今朝は魚が大漁だったと言っていましたから、きっと今まで見たことがない魚もあると思いますよ。」
「そうなの?!うっわーっ楽しみ〜!」
 背後でぎゅっと抱きついてきたユーリの腕を優しく撫で、コンラッドもより一層笑みを深めた。
 馴染みの旧友が出している居酒屋の裏にノーカンティーを繋いで、二人は手を繋ぎ市への道を歩く。
 その間、他愛無い話を交わし、人目が少ないのをいいことにちょっとだけ身を寄せて。
 幸せを感じつつ、ユーリは始終ニコニコと笑顔を絶やさなかった。
 市に着いてからもそれは変わらず、出店を冷やかして歩き、目に留まったものを手にとってはコンラッドに訊ね、気に入ったものがあれば購入して。
「んー、買ったな〜っ」
「そろそろお腹が空く頃でしょう?さっき買った練り餅でも食べる?それともどこかに入りましょうか。」
「この時間だと何処もいっぱいだろ。練り餅食べよ?ほら、あそこの隅に丁度いい椅子があるしさ。」
 そう言って指差した先に、手頃なベンチ椅子がその存在を小さく主張していた。
「そうですね。じゃぁ何か飲み物を買ってきますから、座って先に食べててください。」
「待ってるよ。だから早くねっ」
「はい」
 くすくすと笑みを零し、手を振るユーリに振り返してコンラッドは人の波間に紛れて行った。
 そんなコンラッドの後姿を見送ってから、ユーリは手に持った袋を抱えて椅子に向かう。
「よ、いしょっと」
 ベンチに荷物を下ろし、自身も腰を降ろしてほぅ、と息をつく。
 太陽は少しばかり頂点から西に傾いて、午後のスタートを物語っていた。
 そんな柔らかな日差しを見上げていると、近付いてくる気配を感じて視線を戻す。
「カクさ・・・んじゃなかったか。えーと、あんたは?」
「こりゃまた偉い美人が一人で何してるんだい?こんなところにいたら、それこそ質の悪い奴に掻っ攫われちまうよ。」
 目の前に立った男はにっこりと笑顔を向け、ユーリの腕を掴んだ。
「この路地の先に隠れ家的な店があるんだ。そこで休憩したら?」
「あ、いや、おれ人待ってるから、」
「だったらその辺の人に言っておけばいいよ。この辺の人は皆親切だから。」
「いやでもっ・・・」
「いいからいいから。あぁ、この人の連れが来るかもしれないから、奥の店に居るって伝えておいて?」
 ベンチのすぐ傍に居た青年にそう言うと、男は強引にユーリの腕を掴んで路地へと入っていく。
「ちょっ待ってってば!荷物をっ・・・」
「置いておいた方が連れも気付きやすいよ。」
 それでもユーリはどうにか抵抗を試みたが、体格差もあってビクともしない。
 嫌な予感が胸を締める。
 掴まれた腕が痛い、肌が緊張に強張る。
「ほら、入って」
「う、わっ」
 すでに扱いが乱暴になっている。
 入ったそこは薄暗く、明るい外から入ったユーリはすぐには室内の様子が理解できなかった。
「これはまた、いつにも増して上玉だなぁ?」
「そうでしょう?どうぞ、お好きに申し付けてください。」
「え・・・?やっ、離せっ!!」
「元気な奴だ」

 闇に慣れた視界に。
 男の息遣いと共に見えた天井とその表情は、何処までも醜く欲にまみれていて。

「や…だ・・・っやめろ・・・っ!」
「大人しくしていろ。そうすれば快感だけを感じていられるからな」
「――っ!!」
 店まで連れてきた男が腕を、室内に居た男がユーリの上に覆いかぶさり、ズボンを下着ごと引き下ろした。
 冷たい外気が肌を這い、恐怖に身を震わせる。
「離せっこんなことして何が楽しいんだよっ!」
「楽しいだろう?男なんてそんな生き物だ。快感さえ得られれば例えそれが男でも・・・いや、美しければ相手は誰でもいい。」
「やめっ・・・!」
 ユーリの中心を、ざらついた手が扱き上げる。
 快感など感じない。
 しかし、大好きな彼に慣らされた身体は例え相手が違えども与えられることに忠実に反応を返してしまう。
 吐き気が、喉元までせり上がってきた。
「嫌だ――っ!!」
「煩い」
 殴られることはないが、それでも乱暴に髪を鷲掴まれて口を脂ぎった口臭のキツイ唇に塞がれる。

 ぽろり、と一雫涙が零れ落ちた。

「んっ・・・んんっ!」
 強く扱かれ、零し始めた先走りを全体へ塗り込めるように擦られて。
 硬度を増したそれに男が満悦的な笑みを浮かべる。
「そろそろか」
「っ!?」
 ビクリと身体が強張る。
 男の太い指が、ユーリの先走りを使って奥の蕾を弄くり始めたのだ。
「い・・・やだっコンラッ・・・!!」
「もう少しでその声も快感に染めてやるよ」
 入ってきた指は、快感を与えるには程遠い刺激だけを与えて。
 ただ慣らすだけのその指に、とうとうユーリは・・・・・・叫ぶことをやめた。

 このまま意識を失えたらどんなにいいだろう・・・。

 薄暗い闇の中、男の欲望を受け入れつつ揺さぶられるままのユーリはそっと涙を流した。




  ‡     ‡     ‡




 戻ってすぐ、コンラッドはその場にユーリが居ないと解って辺りを見渡した。
「ユーリっ・・・!」
 焦りが判断を鈍らせる。
 ベンチに荷物が置かれたままの荷物を目に留めつつ、コンラッドは奥歯を噛み締めた。
 強く視界を閉ざし、そうしてどうにか心を落ち着けて。
 ゆっくりと視界を開いたとき、下卑た笑みを浮かべる男が視界の端に映った。
「貴様・・・っ」
「何だ、兄さん。俺に何か用?」
 ベンチの隣に立つ青年へと大股に近付くと、コンラッドはその胸倉を掴み上げた。
 しかし青年はうろたえる事もなく、平然とコンラッドを見上げている。
「・・・ここに、80くらいの少年が座っていなかったか?」
「さぁ?荷物はあったみたいだけど?俺は知らないなぁ」
「だったら、これでどうだ?」
 懐から出したものを男の手に握らせる。
 と。
「こりゃどうも。あの綺麗な少年ならこの路地の奥にある店に行ったよ。」
「そうか、ありがとう。これはそのお礼、だっ!」
「ぐっ・・・!」
 胸倉を離すと同時に男の鳩尾を膝頭で蹴り上げる。
 倒れ伏した男の手を木に絡み付いていた蔦で縛り上げ、急いで路地を走り抜ける。
 青年の言ったとおり、路地の奥には表からは決して解らない小さな飲み屋があった。
 しかし開かれている様子はなく、窓にはカーテンが引かれている。
 迷うこともなく扉に手をかけたコンラッドは、鍵が掛けられていると知ると数歩離れ勢い良く扉を蹴り開けた。
「?! 誰だ!!」
「こんな真昼間から根くらい奴らだな。部屋を暗くして何を、」
「――ン、ラ・・・ド・・・?」
「――ッ!!」
 男の向こう、床に組み敷かれたその人物を見て。
 コンラッドは視界全てが真っ赤に染まったように感じた。
「貴様ら・・・っ!!」
 地に響くような低音が室内を満たし、同時に手近に居た男が吹き飛ぶ。
 両脇に詰まれていた机や椅子が派手に音を立てて崩れ、男は呻き声を洩らすと意識を失った。
 だが、その男などコンラッドにとってどうでもいい。
 今視界に入っているのは、組み敷いた少年――ユーリの上に覆いかぶさっている男一人だけ。
「・・・なれろ・・・」
「何だ、いきなり。邪魔はしないで、」
「離れろ」
 ただ一言。
 唸るようなその言葉に答える間もなく、覆いかぶさっていた男の身体はコンラッドによって軽々と持ち上げられ、壁に押さえつけられた。
「うぐっ?!は、離せ・・・っ」
「・・・・・・」
「っ・・・ぐ、るじ・・・・や・・・め・・・・・・っ」

 男の言葉など、今のコンラッドには届かない。
 掴んでいた喉に更に力を込め、そうして息の根を止めて――。


「・・・め、・・・ねが・・・殺し・・・ダメ・・・っ」
「っ・・・ユーリ!!」


 這いずって来たのだろう、ユーリは必死にコンラッドの足にしがみ付き首を振る。
 その、姿に。

「ユーリ・・・ユーリ・・・っ!」
 コンラッドは男から手を放すと、崩れるようにその場に膝を折りユーリを掻き抱いた。
 裸体の身体を己の上着で包み込み、ぐったりと力を無くしたユーリを抱き上げる。
 店を出てその足でノーカンティーが居る場所まで行くと、そのまま城を目指して駆け抜けた。

 一目につかぬ様自室へと辿り着いたコンラッドは、己のベッドにそっとユーリの身体を横たえる。
 浴室に湯を張り、ユーリの体を清めて再びベッドへと横にならせると、部屋に厳重に鍵をかけ廊下を進んでグウェンダルの部屋へと向かう。
「グウェン、いるか」
「コンラート・・・?どうした、小僧は?」
 暗に「城下に行っていたのでは?」と言われ、コンラッドは黙ったまま拳を握り締めた。
 弟の様子に、グウェンダルは眉間の皺を深める。
「何があった」
「詳しい話は後で。グリエは戻ってきてるだろうか?今から言う場所に数人の部下を向かわせて欲しい。」
「わかった」
 自分の言葉を疑わないグウェンダルに、コンラッドは胸のうちで頭を下げる。
 それからもう一つ、己の部屋には誰も近づけないことを言うと、流石にグウェンダルは首を傾げた。
「どうしてお前の部屋を?」
「グウェンにだけ言っておくけど、・・・ユーリは、今言った場所で性的暴力を受けた。恐らく、誰にも会いたくはないと思う。自室ではギュンターやヴォルフが否応無しに来るだろう?だから・・・」
「お前だけは付いていろ。」
 全てを話さなくてもグウェンダルは事の詳細を理解したようだ。
 そしてその上で、グウェンダルはコンラッドに傍にいるようにと言った。
 だが。
「・・・出来ない・・・俺に、その資格はないよ・・・。」
 力なくそう言ったコンラッドは、そのまま部屋を退出してしまった。



 それからと言うもの、コンラッドの部屋には誰も近付くことはなく、気配を読んでユーリが眠っているのを確認してからコンラッドが食事を運ぶ日が続いた。
 誰もユーリに会うことはなく、ヴォルフラムとギュンターにも事の詳細は伝えずにただ体調が悪い、一人になりたいからと別の部屋で休んでいることだけを説明した。
 もちろんどの部屋で休んでいるかも知らせてはいない。
「・・・たーいちょー。そろそろあんたも休んだらどうです?」
「ヨザか・・・。俺は平気だ、それより奴らは?」
「ちゃーんと処罰の結果が出るまで牢屋に括り付けてありますよー。」
 グウェンダルから詳細を聞いているヨザックは、ふと表情を改めてコンラッドを見据えた。
「いい加減、坊ちゃんとこに行ったらどうだ。」
「グウェンにも言ったが、俺にその資格は・・・」
「資格も何もないだろーが。あんたはそう言ってただ逃げてるだけだろ?守れなかったことに後悔して、そうして坊ちゃんに謝ろうともしない。坊ちゃんが今一人でどれだけ不安でいるか、あんたには解るのか?」
「・・・・・・」
「コンラッド!」
 何も言わず頑なに拒絶を見せるコンラッドを、ヨザックはきつく睨みつけた。
 そうして、握り締めた拳を思い切り振り上げる。
「っ・・・」
 鈍い音と共にコンラッドの体が僅かに揺れた。
 痛みを訴える拳をもう片方の手で押さえ、ヨザックは搾り出すような声でただ一言。
「・・・失くしてからじゃ、遅いんだよ・・・っ」
 それだけを吐き出し、ヨザックは背を向けた。
「失くしてからじゃ遅い、か・・・」
 去っていく姿を視界の端に捉えたまま、誰に言うでもなく呟く。
 そっと自室があるほうへ視線を向け、その名を音にはせずに囁いて。
 一歩、前へと。
 ゆっくりゆっくり、しっかりと踏みしめながら彼が居る部屋へと。
「・・・・・・」
 扉の前に立ち、中から伝わる気配に彼が起きていることを知る。
 あの日以来、コンラッドさえも起きているユーリに会うのはこれが初めてだった。
 緊張に冷たくなった手を一度握り締め、ドアノブを握り締めると慎重に押し開く。
「・・・ユーリ?起きてます・・・、ユーリ!?」
「ぁ・・・」
 ベッドの上に座ったままこちらを振り返ったユーリの手に。
 銀色に光るそれを見つけたコンラッドは、瞬時に駆け寄ってその手を取った。
「何を・・・っ何をしているんだ・・・!」
「はな・・・放し、」
「なっ・・・ユー・・・リ」
 ナイフを持つ手とは逆。
 左手首に走った赤い軌跡に、コンラッドは瞠目した。
 何故、と言う呟きは、しかし音にはならず微かな音を洩らしただけだった。

 何故も何もない。
 ユーリは強いが、だからとてその強さは永遠じゃない。
 強いからこそ、ふとした拍子に脆くなることを、自分は知っていたはずだった。
 ユーリの傍にいるからこそ、一番に解っていたはずだったのだ。
 なのに・・・。

「ユーリ・・・」
「ご、め・・・おれが、おれが汚いから・・・だからコンラッドはもうっ」
「違うっ!!」
 強く否定の言葉を叫んで、コンラッドはその小さな体を力の限りに抱きしめた。
 震える体はいつにも増して熱を持ち、冷えたコンラッドの手を温める。
「ゴメン・・・、俺が・・・守ると言っておきながらあなたをこんな目に合わせた・・・!」
「ちがっ・・・おれ、おれがもっとちゃんと抵抗してればっ・・・こんな・・・体にならなくて済んだのに・・・」
 こんな汚い体。
 そう言って、ユーリは涙を零す。
 ハラハラと、何処までも澄んだ透明な雫。
 その雫をコンラッドはそっと指先で拭い、頤を取って持ち上げると触れるだけの口付けを落とす。
「見せて・・・。何処が汚れたか、俺に見せて」
「で、も・・・」
「俺が清める。全て、あなたの体も、心も。」
 もう一度、今度は啄ばむように優しく、労わるようにその唇へとキスをして。
 ユーリの体に回す腕に力を込める。
「だって・・・コンラッド、おれのこと嫌いになったんじゃないの・・・?汚いって、そう思ったから今日まで・・・」
「違うよ。ユーリを汚いなんて思ったこと1度もない。俺が・・・自分の不甲斐なさにユーリに会わせる顔がなかったんだ。」
 そう、あの時どうして一人にしたのかと。
 十分に考えられることだったのに、彼を一人置いて傍を離れた自分が憎かった。
「ヨザックに言われて、改めて認識したよ。」
「な・・・に?」
 ユーリの手に包帯を巻き終え、その体をそっとベッドに寝かせると優しく頬を撫でる。
 涙に濡れた眦にも舌先で触れ、宥めるように口付けるとコンラッドは彼の横に身を寄せた。
「『失くしてからじゃ遅い』と。部屋に入ってきてあなたを見たとき、その言葉をリアルに感じた。その傷に、心臓が止まるかと思った・・・」
「コンラッド・・・」
 胸に擦り寄ってきたユーリの体を更に深く抱き寄せ、黒い髪に頬を埋めて。
 もう、二度と離さないというように瞼を閉じる。
「あなたの心を、俺如きが完全に癒せるとは思いません。だけど・・・」
 ゆっくりと持ち上げた瞼の向こうに。
 ユーリの漆黒の瞳が真っ直ぐに自分へと向けられ、ふわりと綻ぶ。
 もう二度と見られないと思っていた、彼の笑顔が。
「ユーリ、もう一度・・・俺にあなたを下さい」
「コンラ・・・?」
「あなたの全てを、もう一度俺に・・・。今度こそ必ず、あなたを守るから。この傷に誓って」
 ユーリの左手を取り、その手首に走った線にちゅっと口付ける。
 微かに震えたその体を再び腕の中に囲い込み、潤む瞳を見つめ唇を寄せた。
 応えるユーリは、瞼を下ろして降りてくる唇に唇を合わせ。
「ユーリ・・・、恐かったら言って?」
「ん・・・」
 何度も何度も、安心させるようにその頬を撫で、額に、瞼に、鼻に、唇にキスの雨を落として。
 委ねられてくる温もりに、コンラッドはただただ嬉しさを噛み締めた。
「服、脱がすよ?」
 一つ一つに確認を取り、怯えさせないように一度ユーリの頬を撫でてからその手を移動させて。
「・・・っん」
「恐い・・・?」
「ち、がう・・・へーき」
 裾から入り込んできた手を逃がさないように、ユーリは服の上からその手を掴む。
 そうして自ら胸の飾りへと導き、そっと囁きを落とす。
「触って・・・?」
「ユーリ」
 微かな瞠目の後、コンラッドは蕩けるような笑みを浮かべた。
 その笑顔に、ユーリも釣られて微笑む。
 あんなに不安に揺れた心も、今はこんなにも幸せに満たされて。
「ン・・・ッ、あっ」
「気持ちいい?」
「んっ、・・もち、いい・・・っ」
 コンラッドの頭を腕に包み込み、必死にその快感の波をやり過ごそうとする。
 しかし耐え切れずにユーリの体はビクビクと跳ねて、コンラッドに言葉以上の気持ちを伝えた。
「ここ・・・触って、平気?」
「・・・だ、いじょうぶ・・・」
 僅かに身を強張らせたユーリにコンラッドはふうわりと笑みを向け。
「無理はしないで?あなたが辛いなら今日は・・・」
「やっ・・・!」
 離れようとするコンラッドの体を引きとめ、ユーリは彼の右手を自身の欲心へと導く。
「触って?触って、おれにちゃんとコンラッドを感じさせて。」
「ユーリ・・・」
「あんたで忘れさせて・・・。何もかも、コンラッドで満たして欲しいんだ・・・」
 見下ろしてくるコンラッドの頬に手を這わせ、ユーリはうわ・・・と微笑む。
「あんたがおれのこと汚くないって、そう言ってくれたから・・・だから平気だよ、コンラッド。」
 自身に触らせたそれに腰を押し付け、強請るような眼差しを向ければコンラッドはいいの?と首を傾げた。
 その間も、ユーリはコンラッドの手に欲心を擦り付ける。
 すでにそれは反応を見せ、緩く勃ち上がり始めていた。
「ン・・・ねが、コンラッド・・・」
「ユーリ・・・」
 ちゅっ、と再度口付けを落としながら、やんわりとコンラッドは手を動かし始めた。
 服の上から亀頭の先を撫で、緩く扱き上げて。
 硬度を増したそれにくすりと笑うと、コンラッドはズボンを引き下ろして現れたパンツの紐をするりと解いた。
 現れたソレは、先走りを零してその存在をコンラッドに主張している。
 触って欲しい、と。
「とても綺麗だよ・・・。ここだってこんなに綺麗な桜色だ。」
「ぁ・・・んっ」
 そっと撫でて、それを口にぱくりと含む。
 舌で丁寧に側面を撫で、筋裏をなぞり上げればユーリの欲心は更に硬度を増して雫を流し。
 ちゅっ、くちゅりとわざとらしく音を立ててユーリの羞恥心を煽る。
「はっ・・んん!も・・・ダメ・・・っ」
「イっていいよ」
 ちゅぅぅ。
 きつく吸い上げれば、ユーリはあっけなくコンラッドの口内へと吐精した。
 こくん、と喉を鳴らして飲み込んだコンラッドは、口の端に付いたそれも指で拭って舐め取る。
「後ろ、大丈夫?」
「ぅん・・・早く、ほし・・・っ」
 腕を伸ばし、縋り付いてくるのはユーリの癖。
 そんな仕草にコンラッドは心のそこからホッと安堵の笑みを零して、言われた通りにユーリの秘部へと舌を這わせた。
「やっ?!コンラッ・・・汚いから・・・っ」
「汚くないよ。何処も、何も変わらない。ユーリは綺麗なままだ。」
 恐らく別の男のものを受け入れたことを言っているのだろう。
 それでも、コンラッドは止めようとする手を取ってわざと指に絡めると、そのまま握り締める。
 秘部への愛撫はそのままに、ユーリの手を握っていない方で彼の体を器用に支えて。
 十分に唾液を注ぎこむと中指をそっと差し入れた。
「ん・・・っ」
「力を抜いて?」
 ぐちゅり。
 卑猥な音は室内に響き、二人の欲望へも火を注ぐ。
 一本から二本へと、そして三本に増やし中をかき混ぜるように動かせば、ユーリは快感に身を捩じらせた。
「ひぁっ、んんっあ、ぁんっ」
「ユーリ、欲しいとき言って。あなたの口で、俺を欲しがって」
「も・・・ぅ、ちょうだ・・・っんぁ、コ・・・ンラッドぉ・・・っ」
 握った手にきゅっと力が込められる。
 それに頷き、コンラッドは指を引き抜くと十分に育った自身をユーリへと押し当てた。
「・・・挿入れるよ」
「んっ」
 ゆっくり、時間を掛けて。
 ユーリの内部を傷つけないように、ユーリの心を癒すように。
 少しずつ少しずつ時間を掛けて、己自身をユーリの中へと埋めていく。
「んぁっ・・・はい・・・た・・・?」
「うん、全部ここに。解る?」
 結合部分へユーリの手を導き触れさせると、ユーリは嬉しそうに頷いた。
「コンラ・・・ド、スキ・・・・大好き・・・」
「俺も、愛してるよユーリ・・・」
 互いに互いの名を呼び、その存在を確かめ合って。
 今度こそは、絶対に離れないように。

「ぁっ・・・コ、ンラ・・・ッ―――!!」
「っユーリ・・・!」

 一緒に絶頂を迎えた二人は、強くきつく互いを抱きしめた。







「ユーリ、ホントにもう平気・・・?」
「うん、もう大丈夫。もう・・・あんなことしないから」
 見下ろした先にある左手をそっと撫で、ユーリはにこりと微笑んだ。
 そんなユーリを抱き寄せ、コンラッドは囁く。
「俺も、もう二度とあなたを離さない。・・・あなたから離れたりしない。」
「ん・・・離さないで、コンラッド・・・。」



 睦みあう二人の間には、確かな絆の糸が繋がって。
 二度と糸が解かれることはない。
 そうして漸く、ユーリは暖かな腕に包まれて光り輝く夢の世界へと落ちていった。