祝福の杯



 やってきました、城下町。
 右を向いても左を向いてもそこは人で溢れかえっていた。
「コンラッドっあっち!あれ何?」
「ん?ああ、あれは今回の祭のメインである"神姫の実(しんきのみ)"ですよ。」
「"神姫の実"?」
 ええ、と頷きコンラッドはユーリの手を引いて人ごみの中をゆっくりと進んでいく。
 そうして、ユーリが指したものの前まで来ると目を細めて見上げた。

 "神姫の実"とは、その年の豊作を願うために、毎年この時期この城下町で一番の美を誇る女性、"神姫の巫女"と呼ばれる神(眞王)の遣いが持つ木の実である。
 実とは言っても、見た目は実と言うより木の枝。
 それを純白のドレスに身を包んだ女性が両手に持ち、通りを歩き回るのである。

「へぇ〜。・・・で、コンラッドさん?」
「何ですか、へい・・・っと、坊ちゃん?」
 今日も身分を隠してのお出かけなので、ユーリの名は必然的にいつもの「坊ちゃん」。
 ユーリもそれに気づき、一瞬まずった、と言う表情をして見せたが、コンラッドが目だけで「大丈夫」と応えた。
 周りも二人の名には気づいておらず、ほっと胸を撫で下ろして改めてユーリはコンラッドに向き直った。
「改めて、カクさん。何でわざわざこの格好で来たがったわけ?」
「何でって・・・せっかく持ってきてくださったのに、お披露目しないのももったいないでしょう?それにこの祭りは一種の仮装もあって、ほら、いろんな格好をしている人が居るからばれることもないし。」
 そう言う二人の服装は、いつものお忍びで着てくる服装ではなく、昨日ユーリが持ってきた『浴衣』。
 どうやらそれをいたくお気に召したらしいコンラッドは、今日城下で祭がある旨を教えてくれた折にこの浴衣のことを持ち出してきた。
 そして、ユーリが祭りに行きたいと言うのを判っていて、条件を出してきたのだ。

 『連れて行く代わりに、浴衣を着てくださりませんか?』と。

「あんたはここまでくるのに軍服だったからいいかもしれないけど、このかっこでノーカンティに乗るのって大変なんだぜ?」
「だからちゃんと横抱きにしてきたじゃないですか。」
「いやだからそういうことじゃなく・・・」
 それにそのお披露目ってのもどうなんだろう。
 僅かに眉間に皺を寄せつつ、軽く息をついて"神姫の実"をもう一度見遣ってからユーリは踵を返した。
 せっかくの祭りなんだから楽しまなくちゃ損だ。
 それに大好きな人との大切な時間、誰にも邪魔されずに手を繋いでいられるのだ。
 ユーリは繋がれたままの手にふわりと微笑んで、少しだけ力を込めた。

 それから二人でフラフラと出店を冷やかし、来たときに貰ったお小遣いで城へのお土産を買っていく。
 そのとき、空高く響く笛の音が二人の耳に届いた。
「?」
 何?と問いかけるように隣を見上げれば、穏やかな笑みを浮かべたコンラッドが自分を見下ろしている。
「"神姫の巫女"が出発する合図です。さっき見たあの実を持って町の中を歩く、ね」
 コンラッドは今来たほうを振り返り、そっとユーリの背を促して道の端へと寄った。
「巫女が歩くとき、あの実から取れる果汁が振舞われるんですよ。」
「えっあれって飲めるの?!」
「ええ。とても貴重なもので、この祭りでしか飲めないんです。とてもおいしいんですよ」
「なぁ、おれも飲める?」
「大丈夫、ほんの少しだけしか貰えないけど、全員に配られるようになってるから。」
 そう言ってるうちに、純白のドレスに身を包んだ女性が通りの向こうから歩いてきた。
 その手には、さっき見た木の枝のような実。
 女性の後ろからは果汁が入っているのだろう樽を持った男が二人。
 その男たちからお猪口ほどの器を受け取った女性が、道の端に立ち止まっている人々に手渡している。
「神の使いである彼女から杯を受け取ることで、幸運を分けてもらうんです。ほら、来た」
「あなたに幸あらんことを・・・。どうぞ」
 差し出された杯に一瞬迷い、コンラッドを見遣ると頷かれた。
「いいの?」
「ええ、心配はないですよ」
 その答えにユーリは改めて女性に向き直り、渡された杯を受け取る。
「ありがとう」
 にこりと女性に笑みを浮かべて礼を言うと、女性は仄かに頬を染めて首を振った。
 杯を唇に当て、一息に飲み干す。

 こくん。

 それは果汁にしては甘すぎず、それでいてまろやか。
 あえて言うならグレープフルーツと桃を合わせて、尚且つグレープフツーツの酸味がないという感じだろうか。
 とにかく、コンラッドが絶賛するだけあってとにかくおいしい。
「ん、おいしい!」
「ね?」
 杯を返すと、男は果汁とは違う樽に入っている真水で軽く濯いでさっと水を切る。
 しかしそのとき。
「しまった・・・っ」
「どうしたんです?」
「それが・・・果汁のほうが切れてしまったようで」
 すまなそうに頭を下げる男に、女性も困惑気に眉を寄せた。
 そしてユーリの隣にいるコンラッドに頭を下げる。
「ごめんなさい、蔵に行けばあるのですが・・・」
「いや、俺はいいよ。すぐに行かなければならないしね。坊ちゃんだけでも飲めればそれで。」
「えっでもカクさん、」
「俺は飲んだことがありますから。さ、そろそろ行きましょう」
 長居は無用とばかりにコンラッドは繋いだ手を引く。
 ずんずんと歩いていく背中を見つつ、ユーリは首を傾げた。
「どうかした?」
「何が?」
「何か変・・・ってか、怒ってる?」
「いいえ?」
 明らかに怒ってるだろ?!
 掴まれた手は汗が滲むほど熱い。
 いや、手だけじゃなく顔も火照ってきたし、体も熱い。
 しかもおかしなことに下肢にも熱は集中して、意識は朦朧としてきた。
「コ・・・コ、ン」
「どうしたの?・・・ああ、やっぱりね」
「やっぱり・・・?」
 だんだんと覚束なくなってきた足にコンラッドは笑みを浮かべ、ユーリの体をヒョイと抱き上げる。
 大通りから小道に入り、賑やかな人の声から遠ざかるころに小さな広場が見えた。
「熱いでしょう?」
「ん・・・、な・・・んで」
「それはね、あの果汁のせいですよ。」
「さっき、の・・・?んっ」
 ちゅっ、とキスされ、それだけでグッと下肢の熱が高まる。
 するりと首筋を撫でられ、耳殻を舐められるとそれだけで声が溢れて。
「は、ぁっ・・・だ、め・・コンラッド・・・っ」
「大丈夫、ここには誰も来ないから。このままでいるのは辛いでしょう?」
 低く甘く、宥めるような声に混じるものは艶の帯びた雄の色香。
 背筋を這うように掌が布の上から弄り、空いた手でユーリの欲心を擦り上げた。
「ひあぁっ!」
「ほら、もうこんなに」
 浴衣の合わせ目から差し入れていた手をユーリの前に晒す。
 ねっとりと絡みつく白い体液に、ユーリの顔が見る間に赤みを帯びた。
「やっ・・・見せん、なっ」
「どうして?こんなにおいしいのに」
 手首にまで伝ったそれをぺろりと舐め上げて、コンラッドは目を細め笑った。
「バカ・・・っ何で、そんないじわる・・・っ」
「何で?それはユーリが他の人にまで愛想を振り撒くから。気づいてない?」
 町を歩いている間中、人々の視線があなたに向いているのを。
 どんなに姿形を偽っていても、本質から輝きを放っているあなたに、誰もが釘付けになっているのを。
 顰められた声が吐息と共に耳を擽る。
 それに身を竦めてやり過ごすユーリは、けれども彼の言葉に疑念が過ぎった。
「そ、れ・・・おれじゃ、なくってあんたを見てた、んじゃっ」
「違うよ。どうしてそういうところは鈍いのかな、ユーリは」
「あぁっ、・・・ふぁ、ん!」
 きゅぅぅっと亀頭を強く握られ、あまりの快感の波にユーリは身を震わせた。
 帯を緩められてユーリの素肌が空気に晒される。
「あまり他の人に愛想を振り撒くのは止めて欲しいな。・・・俺だけを見て?」
「ホント・・・っバカだ、あんた・・・!」
 パンツの紐を片方解かれ、立ち上がった欲心から溢れるものに濡らされたそれを足首まで引き降ろす。
 そうすると、もうユーリの体を覆い隠すものはなく。
 光の元に晒されたその姿を、コンラッドはうっとりと見つめた。
「キレイですね。・・・ねぇ、ユーリ。喉が渇いたんだけど」
「?」
 突然の言葉にユーリは伏せがちの瞳をコンラッドに向ける。
 すると、目の前の青年は自分の晒された欲心に顔を埋め、ちゅっと口付けを落として。


「あなたのミルクを、頂戴?」
「――ッ!」


 言うなり先走りを零すそれを口内に導き、くちゅくちっ、と卑猥な音を響かせて強く吸い上げた。
「ひっ!んあぁっっ」
 必死にコンラッドの頭を下肢から離そうと彼の髪に手を差し入れるが、快楽に体の力は奪われ、出来ることと言えばそのまま彼の髪を緩く掴むことくらい。
「あ、あっ、やぁんっ」
「我慢しないで」
 フルフルと首を振るユーリを上目遣いで見遣り、コンラッドは一度ユーリの欲心から口を離すと身を起こして少年の唇にキスをした。
「んっぁふ・・・っ」
「あの実には少々催淫効果の成分が含まれているらしいんです。成人の体には余り効果は現れないらしいんだけど、ユーリには少し強すぎたみたいだね」
 言葉を並べつつ、ユーリの欲心と胸の尖がりを同時に愛撫することは止めない。
「お・・ねがっ、もぅ・・・っ」
 ユーリは力の抜けそうになる腕を必死に伸ばし、コンラッドの首に回した。

 それは、言葉以上にユーリの限界を知らせてくれる仕草。

 ぎゅっと強く抱きついてくる体を抱きしめて、コンラッドはユーリの体を己の膝の上に座らせた。
 そうして自らの合わせ目を寛げ、猛ったものをユーリの蕾へと押し当てる。
「んんっ」
「力を抜いて・・・慣らしてないから辛いと思うけど、そのときは俺に縋りつくんだよ?」
 すでにユーリの痴態を見せられ、コンラッド自身限界に近かった。
 中指をユーリのモノで濡らし、入り口の部分を濡らしつつ回りの筋肉を解す。
 すると指はするんとユーリの中へと招き入れられ、柔らかい内壁に絡められた。
「・・・挿入るよ?」
「ぅ、ん・・・」
 自分を見下ろすユーリの頬を一撫でしてから、コンラッドはゆっくりとユーリの体を下ろす。
「ぅ、あ、あぁぁ・・・っ」
「っ・・・」
 流石に指とは格が違う。
 あまりの圧迫感にユーリはコンラッドの背に爪を立てた。
 その痛みさえ快感に摩り替わるコンラッドは、痛みと圧迫感に萎えつつある欲心に指を絡め、数回扱いてやった。
「んあぁっはふっ・・・」
「大丈夫?」
「へー・・・き、だい・・・じょぶ、だから・・・」

 動いて。

 微かな吐息と共に吐き出された願いは、コンラッドの中に解けると共に実行へと移された。
「あっん!あぁっ」
「ユーリ・・・っ」
 痛みがなくなり快感だけがそこを支配すると、あとはもう貪るようにその快感を追い求めた。
 ユーリのものとコンラッドのものとでぐちゃぐちゃになったそこは、ひたすら卑猥な水温を響かせて。
「ぁ、あっコ・・・ンラ・・・ドぉ・・・っ」
「ユーリ・・・愛してる」
 薄っすらと瞼を持ち上げたユーリの瞳を見入るように見つめ。
 ユーリからもたらされるキスを、コンラッドはふうわりと目を細めて甘受した。


 祭りの声など二人の耳には遠い次元の彼方のことで。
 想いはただそこにある彼の人の元へ。
 杯から齎される祝福など二人には関係などなく、己たちの手で引き寄せる。

「ユーリ・・・」
「コンラッド・・・ッ」

 熱に浮かされた恋人たちの声は当然、誰の耳にも届かなかった。