| 探し人 |
「陛下ぁ〜、へーいかーっ!」 「ん?」 叫び声と共に"何か"が脇を駆け抜けていった。 コンラッドはノーカンティから降りて今しがた走り去ったほうへと声を上げる。 「ギュンター!」 「ああっコンラート!戻ったのですね?!」 すでに100m程過ぎ去った人物は、コンラッドの呼び声にあっという間に戻ってきた。 流石剣の手だれだけあって、多少では息が上がっていない。 と、言うことは、彼が走り出してからそんなに時間が経っていないと言うことで。 つまり。 「陛下、いないのか?」 「そうなのですっ私がグウェンダルの元に行ってる少しの間に姿を消してしまわれて・・・」 「どうしたんだろう?俺がいないときに脱走するなんて・・・」 いつもは自分が連れ出さない限り、執務を放り出すなど有り得ないのに。 コンラッドは小さく首を傾げ、彼が逃げた場所を熟考する。 「城の中にはいなかったんだな?」 「ええ、それはもうくまなく」 そう言えば、今日は辺境の村の子供たちが町に来ていると連絡を受けたな。 思い浮かんだ答えに微かな笑みを浮かべる。 ある程度の目星がついたところでノーカンティの手綱をギュンターに渡した。 「はい、よろしく。」 「了解しまし・・・って、えぇ?!何ですかこれは!」 「ん?もちろん、ノーカンティを厩に戻してあげて。あ、水と干し草も与えてやってくれ。」 じゃ! ギュンターに片手を上げてにこりと笑みを向けると、一目散に駆け出した。 後ろからはなにやら叫び声が聞こえるが、当たり前の如く無視。 コンラッドは迷うこともなく、真っすぐにボールパークを目指した。 「行くぞーっ」 ユーリの声と共に手から離れたボールは弧を描いて宙を舞う。 パスン、と言う音が、小さな子供の手に嵌められたグローブから響いた。 「ナイキャ!」 「ない・・・?」 「上手に取ったってこと。上手いよ、ブランドン」 ユーリはそう言って、にっと笑った。 するとブランドンもつられたように微笑を返す。 「グレターっいっくぞー!」 少し離れた所でエマと並んで立つ愛娘に、ユーリは大きく手を振って。 それに応えて手を振るグレタに向ってもう一つボールを放ってやる。 しっかりとした足取りでボールを追い、その運動神経を生かして上手くボールをキャッチした。 「ユーリっ取った!取ったよっ!!」 「ナイスキャッチっ!上手だよ、グレタ」 えへへっ、と笑うグレタに、本当に嬉しそうにユーリも微笑んだ。 ふと、視界の端に映った影に、ユーリは思わず動きを止める。 「げっ」 「どうしたの?」 ユーリの呻き声に、ブランドンが不思議そうに見上げて首を傾げた。 国境沿いの村に住むブランドンなど、初めはユーリを恐がって近づかなかった子供たちも、今じゃすっかり「お友達」だ。 もちろん、野球仲間。 月に数回、こうして城に登城しては、ボールパークで野球をしたりグレタを交えて遊んだりしている。 そんなブランドンに、ユーリは自らが嵌めていたグローブを手渡し、しーっと唇に人差し指を宛がう。 「おれちょっと隠れるから、誰がおれを探してようと言っちゃダメだぞ」 「?」 未だ不思議そうにしている少年を残し、ユーリはそそくさと森の中へと走り込む。 そして間もなく。 「ブランドン、陛下を見なかったか?」 「あっコンラッド!」 近寄ってきた青年に、子供たちがいっせいに駆け寄った。 寄ってきた子供たちの中にグレタを見つけて、コンラッドは微かに苦笑を浮かべた。 「グレタ、ユーリは?」 「え?えーっと・・・」 困ったように視線を彷徨わせるグレタに、コンラッドは小さく息をつく。 「口止めされたんだな・・・。まったく、何だってあの人は」 こう、一人で動くんだか。 少しは此方の身にもなってもらいたいものだ。 どれだけ人が心配しているか・・・。 「いい、大体の場所はわかったよ。もう少しブランドンたちと遊んでおいで。」 そう言ってそっと髪を撫でてやると、グレタはホッとしたように微笑んで頷いた。 己の傍から離れて行く子供たちを暫く見つめて、ゆっくりとコンラッドは森の中へと足を踏み入れた。 「はぁ〜、やっぱり黙って出てくるのはやばかったか。」 ユーリは大きな木の根元に座り込んで、溜め息を吐き出した。 仕事は全部すませては来たのだ。 取り敢えず、自分で出来る範囲のものは、だが。 それでも、何も言わずに出てきたのは拙かった。 コンラッドは怒らないだろう。怒らない・・・はずだ。 と言うか、見た目には怒っていないのだ。にこにことして、笑顔を振りまくほどで。 ただ、その笑顔の裏に隠されたモノが恐い。 「・・・あいつの怒り方って、質悪いんだよな・・・」 「誰のことですか、それ?」 「うわぁっ」 背後から聞こえた声に、ユーリは思いっきり体を跳ねさせた。 恐る恐る背後を見遣ると、少し困ったような笑みを浮かべたコンラッドが立っている。 「コ、コンラッド・・・」 「探しましたよ、ギュンターもね。どうして黙って抜け出していったんですか」 コンラッドはゆっくりとユーリに近づき、未だに固まっている体をするりと抱き寄せる。 うぅ・・・と呻いて、小さく謝罪の言葉を述べるユーリに、わざとらしく聞こえるように溜め息を漏らした。 「まったく、いくら今日が子供たちが来る日だとしても、俺が帰ってくるまで待ってられなかった?」 「だって、コンラッド遅いんだもん・・・。あ、仕事はちゃんと終わらせたんだぞ?」 いくらユーリとて、仕事をほっぽってまで抜け出そうとは思わない。 与えられた仕事は、きちんとこなすのがユーリのポリシーだから。 「それでも、せめて誰かに言伝だけでもしていってもらわないと、ギュンターが勘違いして大騒ぎになります。」 「・・・ごめん」 しょんぼりと項垂れるユーリの髪を、コンラッドはそっと撫でた。 「せめて俺が帰るまでは、待って欲しかったかな。俺だって、あなたたちと野球したいんですから。」 ね?と、視線を合わせて告げると、ユーリは小さく頷いた。 「ごめん。今度はちゃんとあんたを待つよ。だから・・・少しでも早く帰って来いよ?」 「ええ、そうします。せめてあなたが休憩を取る時間までには、必ず戻るようにしますよ。」 そう言って愛しい人の瞼に口付けた。 そのまま唇を下へと降ろし、熟んだ果実のように赤い唇に己のを重ねる。 初めは啄ばむように優しく、段々と貪るように。 「・・・ん、はっ・・・んんっ、ちょ・・・コンラっ」 コンラッドの右手てが服の裾をたくし上げたのを知って、ユーリが抗議の声を上げる。 必死に止めようと試みるが、巧みに交わされて肌を弄られ、敏感な場所を刺激した。 「お仕置きは、きっちり受けてもらうよ?ユーリ」 「!」 艶の含んだ声が、耳元で囁く。 かぁっと熱くなる顔と共に、逃げようと抵抗を試みた。 もちろん、無理に決まっているけど。 「やっぱりあんた怒ってたな?!」 「怒らないわけがないでしょう?一人で消えるし、俺のことは待っててくれないし?」 そこでどうして疑問系なの? 思わず内心で突っ込んで、それどころではないとユーリは己の思考を消した。 「ちょ、ここ外!待て待て待てっっ」 「お仕置きなんだから、あなたの言い分は聞けないよ」 にっこりといつもと変わらない笑みを浮かべてさらりと言う。 ユーリとしては、その笑顔が途轍もなく黒く見えるのは気のせいだろうか?と疑問符を浮かべて。 やっぱりこいつは腹黒だと、再度認識することになったのだった。 |
| ↓top |