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今回の旅はいろんな意味で疲れた。
おれのそっくりさんを探しに意気揚々と眞魔国を出たまでは良かったのだが、息で凶暴パンダ(名称・砂熊)には会うし、そこでヴォルフ・コンラッドとは離れ離れになっちゃって、一番一緒にいて気まずいグウェンダルと行動をしなきゃならなくなるし、挙句にグウェンダルとおれが何故か駆け落ちカップルになっちゃって追い掛け回されるし、そのせいでおれは収容所送りになるし。
結局おれのそっくりさんのニコラがコンラッドたちと偶然にもぱったり会ってくれたお陰で、グウェンダルとおれは無事に助けられ、おまけに長年行方知れずだった魔笛も手に入れることが出来たわけだが。
しかし、その肝心の魔笛はただのソプラノリコーダー。
小学生の頃から顔馴染みの、ソプラノリコーダー。
アルトでもテノールでもバスでもなくソプラノ。・・・いや、テノールとバスの笛があるのかは知らないけど。
いやだから、そんなことじゃないんだよっ!
おれが今まさに疲れてヘロヘロになっても心休まる状況じゃないのが問題なの。
目の前で相対している青年を見上げて、おれは取り敢えず直球ストレートを投げてみる。
「なぁ、コンラッド。もうお互い素直になろうよ。腹掻っ捌いて話し合おうっ」
正確には腹を割って。掻っ捌いたら死んじゃうって。
一人ツッコミを余所に、コンラッドはいつもの人好きのする、爽やか笑顔のまま首をかしげた。
「・・・何をです?」
「怒ってるだろ」
「別に怒ってませんよ」
「いーやっ怒ってる!他の奴らは誤魔化せてもおれは誤魔化されねーからな!?」
ビシッ、と指を突きつけて、おれはコンラッドを真正面から見据えた。
コンラッドの爽やか笑顔が、微妙に崩れる。
「・・・俺が何で怒ってると思うんですか?」
「理由が分からないから、聞いてるんじゃん」
「態度に出したつもりは無いんだけどな・・・・」
「やっぱり怒ってんじゃねーかっっ」
ボソリと呟かれた言葉に、おれは咆えた。
コンラッドが困ったような笑みを浮かべて俺を見下ろしている。
ズキン・・・と、俺の胸が鈍い痛みを訴えた。
「・・・おれ、コンラッドを怒らせるようなことしちゃった?あ、いや、確かに今回の旅であんたにはいろいろ無理させちゃったし、怒られるようなことは思い出すだけで多々あるんだけど・・・」
「違うよ、ユーリ。別にあなたに怒ってるわけじゃない。まぁ、確かにあなたの言っている内容の中には叱責したい問題がいくつかあるけど、それは言っても止めてくれないと分かっているからね」
その声音は穏やかで、自分を責めている様子など微塵も無い。
では一体何に怒っているのだろうか、彼は?」
帰ってきてからずっと、とくに変わった様子が無かったのは本当だ。態度だって普通だし。
ただ、その身にまとう空気が何となく違うのだ。
うぬぼれてるかもしれないけど、おれだから分かることだと思う。
当の本人も、まさかおれに感づかれていたとは思ってなかったみたいだし。と言うか、自分自身でも己の変化に気がついてなかったのかもしれない。
顔を上げると、コンラッドはやっぱり困ったように眉尻を下げている。
「怒っていると言う表現もちょっと違うかな。・・・うーん、何て言ったらいいんだろう」
コンラッドは口元を右手で覆い隠して暫くおれを見つめていたが、やがて観念したように長く息を吐き出した。
「コンラッド・・・?」
不安になって呼びかけると、コンラッドは一歩ほど開いていた距離を詰めて抱きしめてきた。
そっと耳元に囁きが落とされる。
「嫉妬・・・かな、一番当てはまるのなら」
「・・・・・・・・・・・・・・へ?」
たっぷり5秒、間を開けてからおれは間抜けなほど口を開いて、その一音だけを口にした。
このセリフはどっかでも聞いたような・・・。
「ちょっ・・・ちょちょちょちょっと待て!誰が?誰に?!」
「俺が、グウェンダルに。今回に限って、更に一人に限定されるのならだけど」
ぐいっと体を離して問うおれに、コンラッドは満面の笑みを浮かべて答えてくれた。
あーあー、すっきりした顔しちゃって。
おれはがっくりと肩を落として力いっぱい溜め息を吐き出す。
「・・・なんであんたが嫉妬なんかするんだよ。ってかいったいグウェンのどこに嫉妬したわけ?」
まぁ、グウェンダルもいい男だけどね?
でもさ、だからっておれがグウェンダルを恋愛対象で見るなんて、絶対無いよ?
もちろん、ヴォルフラムやギュンターにもないけど。
「そもそも嫉妬する要因が見つからない・・・」
「要因なんてありすぎますよ。何でヴォルフの後を俺が追わなきゃいけないのか、とか」
それはあんたの弟だし。
「グウェンダルもいるのに?」
「あの場合あんたのほうが近かっただろっ」
「まぁ、それもそうですね。あとはどうしてグウェンダルと手錠をかけてられて仲良くカップル疑惑に甘んじていたのか」
「それもおれが捕まっちゃって、相手のやつがグウェンに脅したからで・・・って、ちょっと待て待て。別にカップル疑惑に甘んじちゃいないぞ?」
コンラッドの聞き捨てならない言葉に突っ込むがスルーされたし。
「まぁ数え切れないほどあるんですよ。グウェンダルやヴォルフがあなたを名前で呼び捨てにしてるのも気に食わないし、ヴォルフと一緒に同じベッドで寝るのも腹立つし」
「だからそれはー・・・って、おいおい何か話が飛んできたぞ?」
腹が立つって何だよ、こら。
結局それっておれが責められてるんじゃないの?」
「でもどうにかしろって言われてもなぁ・・・」
「だから、別にあなたを責めてるんじゃないんですってば。そういういろいろなものに対して制御しきれない自分に怒ってると言うか・・・だから、嫉妬なんですよ」
苦笑を零すコンラッドに、おれはちょっと罪悪感を思えて。
だから、元気が出ますようにと願いを込めて、その頬に口付けた。
・・・まだ自分からキスをするのは抵抗があるので、これで勘弁してください。
「そういう可愛いことするから・・・」
「え?・・・んっ」
噛み付くように唇を奪われ、抵抗する暇も無くコンラッドの舌が俺の舌に絡み付いてきた。
何度も何度も、吸ったり甘く噛んだり。
次第に宥めるような優しい口付けになり、啄ばむように俺の唇を食むと、名残惜しげに離れた。
途端、がくんと膝から力が抜ける。
すかさず伸びてきた腕がおれの体を支えてくれなかったら、無様にへたり込んでいただろう。
「俺以外にそういう可愛い姿は見せないでくださいね、ユーリ?」
「み・・・せられるわけ、ねーだろ・・・っ!」
涙を潤ませて睨みつけるおれに、蕩けるような笑みを向けて。
低い低い、地を這うような声が耳を掠めた。
じゃないと、何するか分からないよ?
誰を?とか何を?とか言う言葉は音になる前に咽の置くに引っ込んでしまった。
例え何かの過ちで起きたとしても、彼ならやりかねない。
何をするかは分からないが、取り敢えず絶対に、やる・・・!
俺は内心で冷や汗を流しながら、軽率な行動は慎もうと固く決意したのだった。
+END+
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