※マニメ終了後のお話です。ご注意を!!








 感動の再開も束の間、久しぶりに眞魔国へ訪れたユーリに着き付けられたのは、当たり前ながら王としての現実で。
「執務が滞っている。着替えたらすぐに執務室へ来い。」
 と言う重低音の良く響くグウェンダルの一言から始まり。
「午後からは国の歴史についてのお勉強ですよっ陛下!」
「お前の肖像画が完成していない。僕が書いてやるから執務が終わったらモデルになれ。」
 と言う二人の言葉が続き、休む暇もなく血盟城へ戻ったユーリは愛娘に会う前にその課程全てをこなす羽目になった。






「・・・っだぁー!つーかーれーたーっ」
 一部を除いて怒涛の業務を終えたのは、夕餉の1時間前くらいだった。
 ふらふらと危ない足取りで寝室に入ったユーリは、開口一番に吠えてベッドに倒れこむ。
「お疲れサマー、渋谷君」
「・・・村田、何でお前はここで優雅に手なんか振っちゃってんだよ。」
 居室のほうから現れた友人にユーリはがっくりと項垂れる。
 すると、その後ろからふわふわした小さなものがこちらに向かって走り寄ってきた。
「ユーリぃっ」
「ぐぇっ・・・グ、グレタ?」
 疲れきった体には少々辛い、だが嬉しくも心地いい重量にユーリは飛びついてきた体を抱きしめた。
「ユーリ、ユーリぃ・・・っ」
「グレタ、元気にしてたか?ごめんな、長い間留守にして・・・。」
 柔らかく、甘く香る髪を優しく撫でる。
「もうやだ・・・っ何処にも行っちゃヤダよ、ユーリっ。もう何処にも行かないで・・・っ」
「グレタ・・・」
 小さな腕で命いっぱい自分の父親を抱きしめる姿は健気で、それ故に彼女の心情がどれ程のものだったか窺える。
 ユーリはそんな娘を抱き上げ、膝の上に乗せるとポンポン、と背中を撫でた。
「大丈夫、もうこんなに長い間留守にすることはないよ。これからは好きなときに眞魔国に来れるから、だからグレタが呼んだらおれはすぐに戻ってくる。」
「ホント・・・?」
「ホント。だからほら、もう泣くなって。せっかく可愛いのに真っ赤になっちゃうだろ?」
 そう言って潤んだ目元を拭ってやる。
 すん、と鼻を啜る音が響き、それからグレタはにっこりと微笑んだ。
「じゃぁ、グレタが呼んだら戻ってきてね、ユーリ。」
「おう、任せとけ!」
 お互いに微笑み合い、それからユーリははっとして腕時計を見遣る。
「あ、そう言えばコンラッド知らない?仕事やら何やらで結局眞王廟から帰ってきてから会ってないんだ。」
「さぁ・・・、僕は見てないけど。」
「グレタも見てないよ?お部屋かなぁ・・・?」
「そっかー。んじゃ、飯までの間ちょっくら探してくるかな。グレタはもう少し村田と遊んでおいで。」
「うんっ!」
 げんなりとした表情をグレタの背後でしている村田に「頼む」と拝み、ユーリは部屋を出た。
 探す当てもなく、取り敢えずグレタの言うとおり彼の部屋へと足を向けてみる。
 部屋の前に差し掛かったとき、中から一人のメイドが出てきた。
「あ、ねぇ、コンラッド居る?」
「閣下ですか?いいえ、居ませんでしたよ。・・・そう言えば昼以降辺りからお見かけしてませんね。」
「えっそうなの?・・・任務、かなぁ」
「ノーカンティーは居ましたから、場内には居るんじゃないでしょうか?」
 メイドはにっこりと微笑むと、「さぁ」と促して。
「もしかしたら陛下に見つけて頂きたいのかもしれませんよ?頑張って探してください。」
 どこか楽しそうに、それ以上に嬉しそうに笑うメイドに、ユーリは苦笑を浮かべてこくりと頷く。

 もしそうだとしたら、ちょっと嬉しいかもしれない。

 いつもとは逆の立場にユーリは頬を弛め、メイドに「じゃぁ」と手を振るとコンラッドの部屋を素通りして中庭へと向かう。
 自分とは違って彼の場合、訳の分からない場所に飛ばされるなんてことはない。
 だとしたら、彼の思い出深い場所を探してみれば会える可能性は高いだろう。
「コンラッドー、何処に行ったんだよー?」
 きょろきょろと見回しながら名前を呼んでみるが、返答はおろか夜の闇が降りた中庭には人の気配すらない。
 暫くぐるぐると回ってみるが、それでも居ないので仕方なく中庭を後にする。
「ほーんと、何処行っちゃったんだよコンラッド。」
 痕はどこだろう?、と思考を巡らし。
 残るは一箇所のみしか浮かばず、ユーリはまさかな、と思いつつそこへと足を向ける。

 城の裏手にある林の向こう。
 広い広い野原に作られた、自分の誕生日プレゼント。
 コンラッドがくれた、16歳の誕生日の最高の贈り物。
「・・・んー、やっぱりいないかなぁ・・・」
 闇の中目を凝らし、人影がないか探す。
 しかし、やはり姿はない。
 ふぅ、と溜息をつき、ユーリはくるりと踵を返した。
 ちらりと腕時計を見ると、夕餉の時刻が既に過ぎている事を教えてくれる。
「あーヤバイ。ヴォルフにどやされるなぁ。」
 城に着いてから暫し逡巡し、どうせ今から食堂へ行ったところで怒られるのは目に見えているのだからと考えて、ユーリは真っ直ぐコンラッドの部屋へ進んだ。
 ここで居なければ、・・・いや、居ないのが当たり前なのだ。
 きっと彼も、もう食堂で食事を取っているかもしれない。
 逆に、自分を探している可能性もあるけれど。
「ま、どっちにしても確かめてから行ってもいいよな。」
 迷うことなく先ほど通った道を戻り、コンラッドの部屋の前まで来るとユーリはノックもせずに中へと入る。
 半分以上が居ないだろうと高を括っての入室だったのだが、入った途端に奥から物音が響いた。
「? コンラッド、いるの?」
「ユーリ・・・?!」
 隣室に続く寝室の扉を開けようと手をかけたとき、中から半ば飛び出すようにコンラッドが現れた。
 危うくぶつかりそうになり、慌てて避けたユーリはふらりと後方によろける。
「う、わっ」
「っ・・・大丈夫ですか?」
「あ、うん。ごめん、ありがと。」
 ほぅ、と息をついて微笑み、コンラッドの腕の中から出ようと体を離す。・・・が。
「・・・コンラッドさん?えーと、離してはもらえな、」
「ユーリ・・・本当にユーリですよね・・・?ここに、いるんですよね?」
「コンラッド?」
 存在を確かめるように彼の掌が頬に触れ、目元を擦り、耳殻を撫で、唇をなぞる。
 手が移動するたびに、その掌の微かな震えがだんだんはっきりと感じ取れて。
 最後に両頬を包み込まれたときには、コンラッドの瞳は細められ、きつく眉は引き絞られていた。
「ユーリ・・・ユーリ・・・っ」
「コンラッド・・・」
 すっぽりと抱き包まれて、コンラッドの声が何度も何度も自分の名を繰り返す。
 震える声に、ユーリの目頭も熱くなりコンラッドの胸に額を摺り寄せた。
「・・・ちゃんと居る、ここにちゃんと居るよコンラッド。もう何処にも行かない、これからはずっと、何があっても一緒に居られるから・・・。」
「ユーリ・・・」
 互いの体が僅かに離れ、ユーリは自分を見下ろしてくる彼に苦笑を浮かべる。
 その頬に流れる雫を、指先でそっと拭い取って。
「何だか、おれ皆のこと泣かせまくってるなぁ。さっきはグレタにも泣かれちゃったし、向こうに帰るときはヴォルフまで泣かせたし。・・・今はコンラッドまで泣かせちゃったしな。」
 下から引き寄せるように彼の頬を包み込み、目元に残った光る雫を舌先で掬い取って頬に作った道筋もぺろりと舐めていく。
 ふと、コンラッドの背後にあるベッドに視線を向け、ユーリはコンラッドの手を取り促すと、ベッドの上にころんと寝転んだ。
「はい、コンラッドはこっち。」
 ぽんぽんと、寝転んだ自分の隣を叩くとコンラッドは目を瞬かせながらベッドに乗り上げてきた。
「ユーリ・・・?」
「ほら、寝転べってば。あんた気づいてないかもしれないけど、ちょっと痩せたよな。顔色も悪いし。ちゃんと寝てたのかよー?」
 ぐいっと腕を引っ張って横にさせるとユーリはコンラッドの頭を腕の中に包み込む。
 柔らかいダークブラウンの髪に頬を摺り寄せ、ユーリはほわりと微笑みを浮かべた。
「ったく、おれが居ない間何してたか怪しいもんだよ。」
「ちゃんと仕事してましたよ?食事だって摂ってたし睡眠もきちんと・・・」
「その割には随分と疲れきった顔してたよなぁ?仕事してたのはいいけど、無理矢理に体に負担の掛かることしてたんじゃないのか?あんた根詰めると食事も睡眠も削ってそうだし。」
 ひょこりと顔を上げた彼の頬を引っ張ってじとりと睨むと、コンラッドが気まずそうに微苦笑を浮かべた。
「そんなことは・・・あるのかな。」
 確かにそんな日があったことはあったから、と言葉を濁しつつ白状するコンラッド。
 やっぱりなと呟いたユーリは、深々と溜息を吐き出して摘まんでいた指に力を込めた。
「痛いですよ、ユーリ。」
「痛くしてんだから当たり前だろっ!?あーもーっどうしてあんたはそうなんだよ!!ぶっ倒れたらどうするんだってのっ」
「大丈夫、鍛えてますから。」
「人間の体をなめるなよ?いくらあんたでも倒れるときは倒れるぞ。」
「いや、俺は魔族・・・」
「揚げ足取らない!!」
 更にぎゅむむと抓り上げ、再び重い溜息を落とす。
 そろそろ抓ることにも疲れてきて、ユーリはぱたりと力を抜いた。
 暫くそのまま動かないで居ると、腕の中がもぞもぞと動き出す。
「ユーリ」
 腕の中にあった頭はいつの間にか自分を見下ろす場所に移動し、逆にユーリの体がコンラッドの腕の中に包まれていた。
 後頭部に手が回り、くいっと引き寄せられる。
「ん・・・っ」
「舌、出して」
 僅かに離した距離で、吐息混じりの掠れた声が低く甘く鼓膜を震わせる。
 言われるままにそろりと舌を差し出すと、始めは壊れ物に触れるかのようにそっと。
 次いで確かめるように絡み取られ、ちゅくっと吸われた。
「ふ、・・・んぁ・・・っ」
 一際強く吸われ、ユーリはぷるると体を震わせる。
 漸く解放されたときには息が上がり、くたりとコンラッドの腕の中に収まっていた。
 宥めるように背中を擦られ、思わず懐深くに潜るユーリ。
「ご飯、どうする?もう皆食べ終わる頃だろうけど。」
「・・・いい、このままでいたい」
 ぎゅぅぅっとしがみ付くように額をぐりぐりコンラッドの胸に擦り付けて首を振る。
 頭上でくすんと吐息のような笑みが落とされたのは分かったが、それでもユーリはコンラッドにしがみ付いたまま離れようとはしなかった。
「・・・うん、俺もこのままがいいかな。ご飯は後で部屋に運ばせましょう。」
「ん・・・」
 ウトウトとし始めたユーリをコンラッドは抱えなおし、シーツを引き上げて優しく髪を梳く。
 ユーリの顔を見下ろすと、ふにゃりと笑みを浮かべていた。
「ユーリ?」
「一緒・・・も、ずっと一緒だから・・・な、コンラッド・・・」
 呟きのようなその言葉は、しっかりとコンラッドの耳に木霊して。
 泣きそうなほど歪められた表情でコンラッドはユーリの額に口付け、頬に自らの頬を摺り寄せる。
「うん・・・もうずっと一緒だよ、ユーリ。・・・・・・今度こそ、お帰り。」






 あなたの国へ。

 そして、この腕の中へ――。