淋しい夜



 淋しい。

 悲しい。

 どうしてこんなに、不安な気持ちになるんだろう?
 どうしてこんなに気持ちが不安定なのだろう・・・。

 傍にいるのに。
 もうどこにも行かないのに。



 静かな部屋。
 ヴォルフラムは領地に戻っているので今日は一人きりだ。
 窓から差し込む星の瞬きを数えつつ、ユーリはきゅっとシーツを握りこむ。


 何が、恐いの?


 自分に問いかけてみる。
 さっきまであんなに楽しい時間を過ごしていたのに。
 大好きな人に「おやすみ」って言われて、とても幸せな気持ちでベッドに潜り込んだのに。

「・・・ふぇっ、」

 おやすみ、と言ってくれた彼の笑顔を思い出す。
 その途端、堪えていた涙がぽろぽろと溢れ出して、高ぶった感情を抑えることができなくなった。

 どうしよう・・・おれ変だ・・・。

 冷静な部分では自分の感情の暴走に自嘲的な笑みを浮かべて。
 高ぶった感情は、それでも収まらずに心の中で暴れ狂っていた。

「ふ・・・っ、な・・・んで・・・っくそ・・・!」

 乱暴に涙を拭っても、後から後から溢れるそれは止まることを知らない。
 苛立ちと、悲壮感。
 無意味にいやいやと頭を振って、枕に顔を擦り付けて。

 コンラッド・・・っ!






「ユーリ」






 いつの間に入ってきたのか、大好きな彼がベッドの脇に立っていた。
 コンラッドは震える肩に手を添え、そっと枕に強く押し付けられたままのユーリの頭部に口付けを落とす。

「どうしたの?」
「っ、ふっ・・・コ、ン・・・っ」

 顔を上げたユーリに、コンラッドは僅かに眉を寄せた。
 くしゃくしゃに濡れた頬に唇を寄せ、次々に流れ出る涙を吸い取る。

「コ、ンッ・・・コンラッドぉ・・・っ」
「うん、ここにいるよ」
「コンラッドぉ・・・っ」

 シーツの波から抱き上げ、きつく抱きしめる。
 何度も何度も背中を撫でて、少しでもユーリが安心するように名前を呼んで。


 何がこんなに彼を悲しくさせているのか、コンラッドには分からない。
 だけど、今彼が自分の存在を求めているのが背中にしがみ付く様に回された腕から伝わってきた。
 か細いからだが壊れそうに震え、小さな体は泣いて冷たくなっている。
 このままでは風邪を引くと、コンラッドはユーリの体を抱きしめたままシーツの中へ潜り込んだ。
 ふと、僅かに熱を持つ体に気づいたコンラッドは今度こそ顔を顰めた。

「熱があるね・・・。ちょっと薬を持ってくるから、」
「や・・・やぁっ」

 起きようと回した腕を外したところで、ユーリは子供のように腕を伸ばしてきた。
 それにはコンラッドも困り果てて。

「何があったの?」
「わ、か・・・んなっ・・・おれ、変っで、ごめ・・・っ」

 またぽろぽろとあふれ出てきた涙に、胸が押し潰れそうに苦しくなる。
 何が彼をこんなに悲しませるのか。
 わからないけれど、でも今は。

「・・・謝らないでいいよ。ユーリが変なんじゃない」

 離した腕を再びユーリの体に回し、泣きじゃくる体をふんわりと抱き寄せる。

「大丈夫、一人にしないから。ね?」
「ふぇっコン・・・ラッド・・・っ」
「うん、大丈夫。もう泣かないで・・・」

 額に、頬に、瞼に、そして唇に。
 落ちるキスの雨に、次第にユーリの涙も収まってくる。
 パチパチとはじける雫に、ふぅわりと微笑みを向けて。

「大丈夫、明日も明後日も、ずっとずっと傍にいるから。ユーリの傍を離れたりしないから。・・・愛してるよ、ユーリ」
「コンラッド・・・ごめん・・・」

 ふと翳った瞳にコンラッドは笑みを深めた。
 そして顎に指をかけ、俯いた顔を上げさせると半ば強引に唇を合わせ、舌を差し入れる。

「ん、ふぅっ・・・んんっ」
「・・・ユーリ、何も謝らなくていいんだ。あなたの気持ちが落ち着くなら、俺はいくらでも傍にいるから。それを許してくれるなら、どんなときでも傍にいるから」

 だからもう一人で泣かないで。



 淋しい夜は、幾夜もあるけれど。
 そんなときは傍にいる。
 泣きたくなったら呼んで。
 心の中で俺の名を。