| 彼の匂い |
ぴちょん。 狭い浴室内に響く、水滴の音。 生暖かな浴槽に浸かって、ユーリはぼんやりと現状把握に脳を動かしていた。 えーと、確かグレタと水遊びをしてて、それで日も暮れてきたしびしょ濡れのままじゃ風邪を引くよってコンラッドに言われたんだよな・・・? それからグレタには少し大きめのバスタオルを被せ、自分にはコンラッドが着ていたシャツを・・・あれ?何でシャツ? 改めて自分が着せられているシャツを引っ張って見る。 そして、その下には何も来ていない自分の素肌。しかも紅い印が点々と散らばっている。 そしてそして、下肢に目をやれば・・・・。 「・・・わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」 「ゆーちゃん?!どうしたんだっ何があった?!」 「何でもない何でもないっ!何でもないから入ってくるなぁ〜っ!!」 勢いよく開けられた扉を一瞬で閉める。 今の現状はとってもまずい、かなりまずいっ! 何せ今のユーリの格好は、裸体にシャツを一枚羽織るだけの姿なのだ。 しつこい様だが、胸や首などにはありすぎる彼の所有印。 そんな格好を今入ってきた人物――勝利に見られたものなら何を言われるか。 ・・・いや、言われるだけならまだいい、かもしれない。 「・・・兎に角上がるか・・・」 真っ赤に染まっているだろう頬を押さえつつ、ユーリはびしょびしょに濡れたシャツを脱いで浴槽から出た。 「ゆーちゃん、このシャツ誰のか知らない?」 「んー?」 向こうから戻ってきて2日。 学校から戻ってきてリビングのソファに腰を下ろしていると、母が首を傾げつつ入ってきた。 その手にはユーリ自身見覚えありすぎて仕方ない、と言うものがぶら下がっていて。 「―――ッ!!!」 瞬時に朱の上る顔を背けつつも、母の手にあるソレを奪い取りダッシュで階段を駆け上がった。 「ゆーちゃん・・・?」 瞬時に姿を消した息子に更に首を捻りつつ、美子はまぁいいかと頷く。 その横顔には、微かに笑みが上っているのは気のせいではないだろう。 「はぁはぁはぁっ」 あ、あぶねーっと内心で叫びつつ、抱きしめていたシャツから自分の家の匂いと、それとは明らかに違うもう一つの匂いにきゅぅぅっと胸の奥が締め付けられた。 「・・・デザイン、違うんだよなぁこっちのとは」 改めて目の前で広げてみて、頬を緩める。 自分が羽織ると十分に余ってしまうそのシャツは、こちらに来るときに彼が自分をベッドから浴室に運ぶ際に着せ掛けてくれたもの。 水浴びをした後、グレタを浴室に連れて行き自分はコンラッドの部屋へと連れて行かれた。 そこで始めはちゃんと浴槽に浸かっていたのだが、結局一緒に入ってきたコンラッドがあーんなことやこーんなことをしてきたせいで、その場は情欲を分かつ行為へと向かってしまった。 行為の後身体を洗ってくれた彼は自分のシャツを着せ掛けてくれ、その後足を滑らせたユーリは真っ逆さまに浴槽へ沈みそのままスタツアったわけだ。 まったく、思い出すだけでも羞恥心で顔が熱くなる。 「・・・でも、コンラッドの匂いがする・・・」 ベッドにぽふんっと寝転がり、コンラッドのシャツを羽織ってぎゅぅっと抱きしめる。 そうしていると、まるで彼に抱きしめられているような気がした。 けれど、彼自身に抱きしめてもらってるわけじゃなくて。 (・・・会いたいな・・・) まだ2日しか経ってないのに。 それでも、こちらにいると自分がいない間の彼はどうしているのだろうとか、今はどんなことをしているんだろうとか、彼のことばかりが頭の中に浮かんでくる。 「コンラッド・・・」 せっかくアイロンをかけてくれたのに、くしゃくしゃになっちゃうな。 そんな取り留めのないことを頭の片隅で思いつつ、抱きしめる腕には力が篭る。 こっちにいる間の宝物。 絶対に手放せない、彼の匂い。 柔らかな微笑を浮かべたまま、静かに瞼を下ろす。 脳裏に浮かぶのは彼の優しい眼差しと微笑み。 彼の匂いに包まれながら、ゆっくりとユーリはまどろみの中へと落ちていった。 |