| 08.泣かないで、傍に居るから |
ふと、夜中に眠りから覚めるときがある。 そんな時、何故かいつも言い知れぬ孤独感に苛まれ、朝まで眠れないこともしばしばあった。 眠れない。 どうやら、今回も睡魔が襲ってきてくれる気配はなさそうだ。 「・・・・・・」 ふらり。 布団から抜け出し、ユーリは廊下へと歩み出た。 思考は霞み、何も考えることが出来ない。 ただ――。 「眠れ、ない・・・」 呟きは静かな廊下に響く。 誰も、そんなユーリの姿を捉えることはなかった。 * * * ――眠れない。 コンラッドは浅い吐息をつき、ベッドの中から窓の外へ視線を転じる。 薄ぼんやりと浮かぶ半月。 いつの頃からか、コンラッドは眠れぬ夜を月を見てやり過ごすことを身につけてしまった。 今頃、彼は夢の世界に浸り、安らかな眠りについているだろう。 そんなことを思い浮かべ、ふと笑みを零す。 だが。 コンコン。 小さなノックの音に瞠目し、コンラッドは上半身をベッドの上に起こした。 再びノックされ、コンラッドはベッドを降り扉に近寄る。 馴染んだ気配に首を傾げつつ、そっと扉を引き開ければ。 「ヨザック?どうしたんだ、こんな時間に。」 「悪いな。さっき陛下の部屋の前を通ったら、兵たちが騒いでたからよ。」 「何かあったのか。」 す・・・、と空気が変わったのにヨザックは苦笑いを浮かべる。 しかしその表情もすぐに消え、真顔に戻ったヨザックは口を開いた。 「どうやら部屋からいなくなったらしい。お生まれになった世界へ戻ったのかと水場は全て調べたらしいんだが、その様子もなくて城中探し回ってる。俺はてっきりお前んとこに居ると思ったんだが・・・。」 「いや、こちらには来ていない。」 そうか、とヨザックは溜息混じりに言葉を吐き出す。 「お前が戻ってきてから、大分よくなったと思ったんだけどな・・・」 「何か言ったか?」 「いーや。それより探しに行くんだろ?さっさと上着持って来いよ」 ああ、と頷きコンラッドが部屋の中へ戻ろうと身を翻す。 「・・・ンラ・・・ド・・・?」 ヨザックの背後、話の渦中の人物がぺたぺたと裸足で室内に入ってきた。 「陛下?!」 「坊ちゃんっ何処に行ってたんですか!」 「・・・ーか、ゆー、な・・・っ」 ぺたりぺたりと歩み寄ってきたユーリは、ヨザックの横をすり抜けると上着を手にしたまま固まっているコンラッドに抱きついた。 抱きついた、何て表現は間違っているかもしれない。 縋りつく、或いはしがみ付く様にユーリはコンラッドの服を握り締めていた。 その震える肩をそっと手にしていた上着で包み込み、抱き寄せる。 「・・・どうしたの?」 「・・・むれない・・・どっか、行っちゃうんじゃ・・・ないかって・・・」 ぎゅぅぅぅ、と更に掴む手に力が込められる。 コンラッドは素早くヨザックに目配せし、それを受けたヨザックは目礼して部屋を退室して行った。 それを確認してコンラッドはユーリの体を抱き上げ、ベッドへと横にさせて。 「眠れないなら、一緒に寝よう。ね?」 「・・・・・・何処にも、行かない・・・?ちゃんと、いてくれる?」 「いるよ、ここに。もうあなたを一人にしないと誓ったでしょう?」 コンラッドもユーリの隣に身を横たえてシーツを引き上げ、腕の中に冷えた体を抱きこむ。 すると、胸元がヒヤリと濡れた。 「ユーリ?」 「・・・っ、コン、ラッド・・・っ」 ヒクン、と体を慄かせると、小さな体を更にちぢこませて。 声を上げまいと唇を噛み締め、ユーリはコンラッドの胸に顔を擦りつけてきた。 その、小さくて、震える体をコンラッドは力強く抱きしめる。 「泣かないで・・・二度と離れない、ずっと、傍にいるから・・・」 僅かに身を離し、頬に手を添えて優しく引き上げる。 濡れた双眸が弾けるようにパチパチと瞬き、自分を見上げた。 その黒い瞳にふうわりと微笑みを浮かべ。 「おやすみ。明日になれば、また忙しい一日になるよ。休憩時間にはキャッチボールをして、午後にはちょっとだけギュンターの勉強会抜け出して城下に行こう?楽しいことが、きっといっぱいあなたを待ってる。」 目尻に溜まった雫を親指で拭い、おでこにちゅっと口付けて。 「明日も一緒に、いっぱい笑おう。たくさん話をして、そしてまたこうして一緒に眠りにつこう。そうしたら、もう眠れなくなることなんてなくなるから・・・。」 あやすようにポンポンと背中を叩いて、微かに響く程度の声音で子守唄を歌う。 次第に腕の重みが増し、いつしかすやすやと心地よい寝息が聞こえ出した。 「おやすみ、ユーリ。今度こそ、よい夢を」 コンラッドは柔らかな笑みを浮かべ、自分も眠りに付くべく瞼を下ろした。 |
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これ、甘甘になってないよー。 と言うか、B面は見る限りに甘甘とは縁遠い題名ばかりですね・・・(汗) 06.2.8 |