04.キスで起こして




 朝目が覚めて、違和感を感じ首を捻る。

 何かがおかしい、一体なんだろう?

 ぼんやりとした意識の中、暫く天井を見つめたままで居ると隣でもぞりと何かが動いた。
「・・・?」
 何だろうとふと視線を転じて、納得する。
 誰かが居るのは当たり前だ。
 ここは地球の自室じゃなく、異世界、血盟城のウェラー卿コンラートの私室なのだから。
 どうして魔王陛下専用私室じゃないのかと言えば、それは自分と彼が恋仲の関係故。
 昨夜遅くに戻ってきて、そのまま彼の部屋で夜を共にしたのだった。
 それにしても、彼が自分より先に起きていないなど珍しい。
 ひょこりと身を起こし、頬杖を付いて寝顔を見下ろす。
 整った精悍な顔。頬には長い睫の影が濃く形を落としている。
「・・・ったく、どうして寝ててもカッコいいんだろ」
 穏やかな寝顔に悪態を吐きつつも、漏れるのは微笑みばかり。
 額に掛かる前髪をそっと払い除け、現れた額に唇を落とすと僅かに眉間に皺が寄る。
 そんな些細な仕草さえも愛しくて、くすくすと笑みが零れた。
「コンラッドー、ロードワークの時間だぞー。起きないならおれ一人で行っちゃうよ?」
 ちょん、と頬を突き目を眇め。
 ゆっくりと持ち上がった瞳の奥にはユーリの大好きな、夜空の星のような銀の虹彩。
「コンラッド」
「・・・ユーリ」
 ぼんやりとした眼差しが、ユーリと焦点を結ぶ。
 その瞳が深い深い色を帯びて。
「・・・キス」
「・・・・・・・・・・・・は?」
 突然零れた言葉は、思いもかけないもの。
 きょとんと目を瞬き、答えた声はただの一言。
 コンラッドは再びその銀の虹彩を瞼の裏に隠して、先ほどと同じ言葉を繰り返した。
「キス」
「・・・それが、どうしたってんだよ」
 わけが分からないと首を捻ると、ゆっくりと彼の腕が伸ばされる。
 ユーリの頬をさらりと撫で、更にコンラッドの唇が音を綴った。
「キスをくれたら、起きるよ」
 ねぇ、ユーリ。
 強請るような声は甘く。
 甘い囁きを紡いだ口は、訪れるキスを待つように閉じられる。
 黙ったままその顔を見つめているが、コンラッドは一向に起きる気配を見せない。
「・・・・・・、もう、しょうがないなぁ」
 いつまでたっても変わらないコンラッドの態度に観念して、ユーリは横になっているコンラッドの体に覆い被さった。
 何処までも整った顔が無性に腹立つが、それに惚れたのは他でもない自分。
 ゆっくりと顔を近付け、そっと。
 触れ合わせるだけのキスを送る。
「起きて、コンラッド」
「・・・おはよう、ユーリ」
 漸く目覚めた彼が、嬉しそうにふうわりと蕩けるような笑顔を浮かべる。
 こつんと額を合わせ、吐息も絡まるほどの距離でユーリも「おはよう」と囁く。
 そうして、今日二度目のキスをしよう。




愛しい人のkissで目覚める 幸せな朝――

>>> 2007 01 12