WEB CLAP 7  ボイスクロック Ver.4



 その日一日を寝て過ごそうと決意して、ヨザックは宛がわれている部屋のベッドの中で惰眠を貪っていた。
 ここ3週間、シマロンの動向を探るのに睡眠を削ってボロ雑巾の如く駆けずり回っていたのだ。
 それも一段落つき、昨夜遅くに上司の元へ目通りしたヨザックは、一通りの報告をし終えると1週間の休みを与えられた。



「・・・え?!いいんですかい?」
「私がいいと言っている。それとも文句でもあるのか?流石にこれ以上はやれんぞ」
「いや、まさか閣下からそんなお気遣いを頂けるとは思いませんでしたので」
「お前には良く働いてもらっている。今回の任務は命の危険性も高かったからな」
「お言葉に預かり光栄です。・・・・・・でも今回は命より貞操の方が・・・・・・」
「3日に減らすか」
「そんな閣下ったらつれないんだ・か・らっ」
「・・・・・・」
 じとりと睨まれ、体をくねらせていたヨザックは軽く肩を竦ませるとそそくさと退室した。
 それ以上いたら本気で3日に減らされそうだ。
 ふと、部屋へ戻る途中幼馴染のところでも寄ろうかと思ったのだが。
「―――やめた」
 向かおうとした足を引き戻し、ヨザックはそのまま城を出て。
(せっかくの夜の営みを邪魔しちゃ、後が恐いからな・・・)
 にんまりと笑みを浮かべ、自室に着くと早々にベッドへ潜り込んだ。



 そして冒頭に戻るわけなのだが。
 いつもの習慣で目覚めてしまい、ヨザックはごろごろとベッドの上を転がる。
 しかし、ふと廊下の奥からコツコツ、と規則正しい足音に首を傾げる。
 足音など聞きなれているのだが、しかしその足音を立てる人物は滅多にこの兵舎を訪れないので。
「・・・・・・」
 無言でその気配を読んでいると、足音は自室の前で止まり。


 バンッ!


「!?」
「もう朝だぞ!こんな日にまだ寝ているなんて勿体無い!」
 そう言ってずかずかと入ってくると、カーテンを開け放った。
 突如朝の光が部屋全体を照らす。
「馬で遠乗りなんてどうだ?なぁ、ヨザ」
「コ、コンラッド?!あんた何して」
 満面の笑みを浮かべて振り返ったコンラッドに、たらりと嫌な汗が背中を流れる。
「行くだろう?まさか俺の誘いを断るなんてことしないよな?」

 ・・・断りたいです。

 何てセリフを、今目の前のこいつに言える奴がいるならお目にかかりたい。
 そんなことを心の中で叫びつつ、最後の手段とばかりに口を開いたヨザックは。
「ぼ、坊ちゃんはどうしたんだよっ!閣下の話じゃまだ滞在・・・」
「今朝方俺の部屋の浴室から、向こうの世界に戻られた」
「あ・・・あれま・・・」
 自ら地雷を踏んでしまった。
 しかし、何が彼をここまで不機嫌にさせているのだろうか。
 ・・・と、行き着いた答えに思わずヨザックは溜息を漏らした。
「どうせ風呂に入りつつもう1ラウンド、とか思ってた矢先に帰っちゃったから面白くないってこと・・・」
「良く動く口はこれか?」
「いひゃ、いひゃいっ」
 ぎゅうぎゅうと思いっきり頬を抓られて、ヨザックはわたわたと腕を振り回した。
 漸く放された時には、熟れたトマトの如く真っ赤に腫れ上がっていて。
「わかったっわかりました!!行きゃあいいんだろっ」
「だったらさっさと支度をしろ。」
 言い置いて、さっさと部屋を出て行くコンラッド。
 やれやれと二度目の溜息を吐き出し、ヨザックはベッドから降り立った。

 ユーリが帰った後の、コンラッドの不機嫌は今に始まったことじゃない。

 大抵3日前後は仏頂面で、無自覚のまま周辺に当たりまくっている。
「・・・もしかして、閣下ってば知ってた・・・?」
 ユーリが帰るのを知ってて自分に休日を与えたのだとしたら、ちょっとヒドイと思う。
 だが。
「・・・ま、いっか」

 昔のように何の感情も表さず、ただ動く人形のようだった頃よりも。
 今のように、笑ったり怒ったり、くるくるといろんな表情を見せる彼のほうが好ましい。



「うひゃっ、まっぶしー」
「いい天気だろう?」
「ああ、まさしく遠乗り日和だな。・・・で、何処へ行く?」
「西の森の中に綺麗な湖があるらしいんだ。ユーリを連れて行く前に下見に、な」
「へいへい、ごちそーさま。んじゃ、出発するか」
 小気味良い良い掛け声と共に、二人は走り出す。
 頭上から燦々と降り注ぐ太陽の光を全身に受けるコンラッドを見つめ、ヨザックはふわりと嬉しそうな笑みを浮かべた。