WEB CLAP 2 in 眞魔国 ヴォルテール城の執務室は、最近使われる回数がめっきり減っている。 それはもちろん、この部屋―――もとい、城の主であるフォンボルテール卿グウェンダルその人が不在であるから。 しかし、今日は久々にその人物が珍しい客人を伴ってヴォルテール城の執務室にいた。 城の主の手には、編み物の棒。 こめかみの少し上にはちょっぴり大きめな怒りマーク。 執務机の上に置かれた書類が、所在なさげに存在を主張している。 かたや客人の手には涼しげなグラス。 何が楽しいのかニコニコニコニコ・・・、笑顔を絶やさず座っていた。 その人物の背後に黒い影が見えるのは気のせいだろうか・・・。 「・・・で?まさかお前はわざわざ茶を飲むためにはるばるこんなところまで来たわけではあるまい。」 「もちろん。お茶なら自分の部屋でも飲めますからね。」 軽く肩を竦めて見せ、持っていたグラスをテーブルに置いた。 そして内ポケットから一通の封筒を取り出すとグウェンダルへ差し出した。 「?」 「読めば解ります。」 視線で問えば即答で返って来た。 封筒に手を伸ばしつつ、渋面を作ったグウェンダルは客人をじろりと睨む。 「―――コンラート、その物言いは私への当て付けか?」 「おや、お気に召さなかったか。これでも一応"遣い"として来ているので敬語を使っていたのですがね?」 わざとらしく疑問系で長兄に問いかけると、元々出来ていた眉間の皺が2本増えた。 「・・・やめろ」 低音を響かせたその言葉に、コンラッドはくすりと笑んで「了解した」と答える。 どことなく楽しそうな弟の様子にグウェンダルも内心で苦笑し、封筒から取り出した手紙をゆっくりと開いた。 そこには見慣れた文字の羅列。 それにざっと眼を通して、書かれていた内容にさらに一本、皺が刻まれた。 「・・・私は一昨日こちらに帰ってきたばかりなのだが?」 「うん。俺は昨日の昼に城を出たからね。」 「・・・と、言うことは」 「二日、かな?」 コンラッドは指折り数えてそう答える。 バンッ!! グウェンダルの拳が握りつぶされた手紙ごと机に叩きつけられた。 「どうしたらたったの二日でこれだけの未決済書類が溜まるんだ?!」 「うーん、それは直接ギュンターに聞いたほうが早いかと。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・戻せ」 「え?」 あまりの小ささに聞き取れず、コンラッドは小首を傾げた。 すると今度ははっきりと(って言うか、聞こえすぎて鼓膜が破れそうだ)叫んだ。 「小僧を戻せーーーっ!!」 グウェンダルの絶叫が城中に木霊した。 それに伴い、どこからかガラスの割れる音やら物が倒れる音が聞こえてくる。 この部屋の外で起こっているであろう惨劇に、コンラッドは胸の内で合掌した。 それから「魔族ホントは似てたのね?!三兄弟」の長兄であるグウェンダルを見遣り、困ったように肩を竦めた。 「陛下は先日向こうに戻ったばかりだけど・・・。」 「かまうものかっ緊急事態だ!!」 すでに手には眞王廟へ向けての手紙が握られていて。 いつでも完璧な彼の秘書が、白鳩便をさっと差し出した。 「戻ってきたら首に縄つけて机に噛り付かせてやる・・・っ」 ぶつぶつと、半分目を虚ろにさせながら紡ぎだされた言葉たちに。 コンラッドがす・・・っと立ち上がりグウェンダルに詰め寄った。 もちろん、気配は完全に殺して、だ。 「―――グウェン?」 「逃がさないように扉や窓には魔力で結界を・・・・・、―――!!?」 ぽん、と肩を叩かれ、漸くグウェンダルは真後ろにあるコンラッドの存在に気がついた。 そして、先ほどまで彼の背後に見えていた影と、その彼自身のにーっこりと爽やかな笑顔を視界に収めた瞬間、グウェンダルは声にならない声を上げた。 「グ ウ ェ ン ダ ル ?」 「なななななななななな・・・っっ」 何だ?! 一音一句、区切るように発せられた自分の名に、グウェンダルは冷や汗を垂れ流す。 いや、この汗はきっと彼が発する妙な黒い気配に怯えているからだっ そんな心の呟きが聞こえたのか、コンラッドは嬉しそうにまた微笑んで首を傾けた。 その仕草と表情は彼を見た目よりも幼く見せ、奇(く)しくも可愛らしいとさえ思わせた。 その証拠に、グウェンダルの頬が微かに緩んでいる。 ―――だがしかし。 「俺の可愛いユーリを過労死させるつもりですか?」 見た目と相反して年相応の低音に、ピシリと硬直する。 思わず視線を逸らしてしまい、しまった!と思った。 弱肉強食の掟。 ―――先に目を逸らしたほうが負け=弱者。 そしてどこか妙に冷めた思考の片隅で思い出す。 地震、雷、火事、オヤジ〜。 いつだったか我が国の魔王陛下が、馴染みのない曲調で歌っていた気がする。 その時傍にいた末弟が、「その変な歌は何だ?」と顔を顰めて。 対し魔王陛下は笑いながら答えた。 曰く。 『地震とか雷とか、天災や火事の次に父親が恐いってことだよ。』 そしてもう一つ、重大なことが浮かび上がる。 コンラッドはユーリの名付け親。 と、言うことは『父親』と言う枠に当てはまらなくも、ない。 「・・・」 ちらりと視線を戻す。 それを待っていたかのように口が動いた。 「確かにユーリがしなければいけない仕事ではあるけど、彼はまだまだこの国に対しての知識が少ない。それに彼が倒れてみろ、あのギュンターが本格的に使い物にならなくなるよ?ヴォルフはギャンギャン喚くだろうし、グレタはとても悲しむ。ねぇ?グウェン。俺の可愛いユーリが苦しむ姿をあなただって見たくはないでしょう?ああ、もちろん今すぐユーリをこちらに呼ぶのは反対じゃない。寧ろ大いに賛同するよ。俺としては1分でも1秒でも長く一緒に居たいからね。」 長々と続く言葉にグウェンダルは頭を抱えた。 もうこれは脅迫と取ってもよくはないか? それよりも先ほどから言葉の中に現れる「俺の可愛いユーリ」は何なんだっ! 無意識に惚気るのはどうにかならないものだろうか・・・(いや、こいつのことだから恐らく故意的に言っているに違いない)。 兎にも角にも、今現在見るからにコンラッドは彼の護衛やら父親やらの権利を盾にしているのは明らか。 そしてそれに対抗する術を、残念ながら今のグウェンダルには持ち合わせていなかった。 ・・・さすがはあのアニシナをかわすだけのことはある。 「・・・わかったわかったっ今から血盟城に戻る!それで文句はあるまい?!」 「さすがグウェン、話が分かる」 何を言うか、とグウェンダルは内心で悪態を付いた。 本当にこの性格は誰から授かったんだか。 「もちろん、眞王廟にも特急で報せを送るんだよね?」 ・・・ああ本当に、この腹黒さは誰に似たんだコンラート・・・。 そのころ、地球ではユーリがくしゃみを連発していたトサ〜。 −Fin− 拍手ありがとうございましたー!! |