WEB CLAP 12 小さな願い Yuri & conrad 随分と遅かったですね、と言う声とともに開かれる扉。 お邪魔しますと言って中に入ると、ユーリは定位置のベッドへ飛び乗った。 「うん。途中でヨザックと会って少し話してきたんだ。」 「ヨザックに?そう言えば今日戻ると白鳩便が届いていたな・・・。なるほど、それでそのコートを羽織ってきたんですね。」 ベッドの前にある椅子の背凭れに掛かったコートを示し、コンラッドは閉めた扉からユーリのほうへと歩み寄ってくる。 問いかけに頷いたユーリは、床に放置されたままの剣に目を留めた。 「剣手入れしてたの?」 「ええ。あなたが来るまでの間、暇潰しに。」 乱雑に置かれた剣と油と布を手に取ると部屋の隅に設置されている棚にそれらを片付け、今度こそユーリの寝転がるベッドの上に乗り上がる。 そのまま覆い被さり、ユーリの額に口付けを落とした。 「んっ・・・どしたの?」 「確かめてるんですよ、あなたがここにいることを。こうして、実感してるんです。」 額から瞼、頬、鼻、そして唇。 押し当てるだけの軽いキスにユーリはくすくすと笑みを零した。 幸せなひと時。 まるで夢のような現実。 そこにある確かな温もりに、ユーリは腕を伸ばす。 「ユーリ?・・・眠いの?」 「んー?違うよ。・・・暖かいなーって、思って。」 抱きつきやすいようユーリの隣に身を横たえたコンラッドは、その言葉に目を細めて笑った。 「ユーリのほうが暖かいけどね。」 ユーリの体を腕の中に囲い込み、ぎゅっと力を込める。 頬を擽る黒髪に口付け、顔を上げた少年の唇に二度目のキスを落とした。 「ん・・・ッ」 啄ばむようなキスに、ユーリからは甘い吐息が零れる。 宥めるように背を撫でて、コンラッドはそっと唇を離した。 「・・・そう言えば、ヨザックと何を話してきたんですか?」 ふと上げた視線の隅にユーリが着てきたコートが映り、何とはなくそう問いかけた。 するとユーリの頬が、花が綻ぶように弛められて。 「ナイショ。」 それは昼間、ツェリに何かを耳打ちされたときにも浮かべた表情。 コンラッドは僅かに肩眉を持ち上げて腕の中のユーリを見下ろす。 「・・・それじゃぁ、昼間母上からは何を言われたんです?」 「それもナイショ。・・・って、うわぁぁっちょっコンラッド?!何すんだよッッ」 「昼間の件でのお仕置き、まだでしたよね?」 にっこりと完璧なほど爽やかな笑みを浮かべると、パジャマの裾から差し入れられた手でユーリの脇腹をつつ・・・と撫で上げた。 「んんっ・・・コ、ンラ・・・やめろ、ってば・・・っ」 「話してくれたら止めてあげる」 首筋に強く吸い付いて、深紅の花弁を散らす。 「な、に怒って・・・っ」 「怒ってません、拗ねてるだけです。」 「・・・・・・」 首筋から顔を上げたコンラッドの表情と、その言葉に。 数秒固まり目を瞬かせていたユーリは、次の瞬間――。 「ぷっ・・・くくっ、あははっ!」 腹を抱えて笑い出した。 その様子に憮然とした表情を浮かべ、眉を顰めるコンラッド。 「だ、だいの大人が拗ねるって言うなよ・・・っ」 「仕方がないでしょう?本当のことなんだから。」 腕の中で体を震わせる恋人に、はぁ、と溜息をついて。 ヤル気を失ったのか、はたまた諦めたのか、コンラッドはただユーリを抱きしめた。 「まさかツェリ様にまでヤキモチ焼いたの?」 漸く笑いの治まった声で自分を抱きしめる人物を見上げる。 「拗ねてます」と顔にも声にも表して、コンラッドはユーリの問いに頷き答えた。 「まかりなりにも女性ですから。男の俺じゃ、太刀打ちできない部分がある。」 「おれがツェリ様を好きになるかもって?」 「あなたを信じているけれど、可能性はゼロじゃないでしょう?」 「自分の母親にまで嫉妬するなんてなぁ。」 頬を緩め、己を抱きしめる情けない表情を浮かべた男の背にユーリは腕を回す。 「うーん・・・願い事って、人に言っちゃったら叶わないものだから、二人と何を話したかは言えないんだけどさ」 「願い事って、・・・あの二人はまた何をあなたに課せようと、」 「あー、違う違う。」 厳しさの含んだ声音に苦笑し、ユーリは否定のために首を振った。 それからコンラッドの胸に頬を摺り寄せ、ほわりと笑みを浮かべて。 「ツェリ様やヨザックがおれに願ったことは、出来たらおれもそうでありたいと、そうなれたらいいなって思ったことだから。だから、二人から言われたときはホントに嬉しかった。」 「ユーリ・・・」 ふと顔を上げたユーリは更に笑みを深め。 「あんたって、結構いろんな人から愛されてるんだよ?」 昔の部下や、今の部下。 城下の人々に、国境付近の村の子供たち。 そして何より、母親であるツェリや兄弟であるグウェンダル、ヴォルフラムも。 ヨザックだって、みんなが「ウェラー卿コンラート」の幸せを願っている。 「ま、一番あんたを愛してるのはおれだけどね。」 ちょん、と触れるだけのキスを送り、ユーリはにっこりと微笑む。 「ユーリ」 蕩けるような瞳でユーリを見つめ、コンラッドはこつんとユーリの額に己の額をくっつけた。 「ありがとう。俺も、ユーリを一番愛してるよ。」 「うん。」 耳の奥に木霊す、二つの小さな願い。 それは、二つから三つ、三つから四つと増えていって、やがてはとても大きな祈りになる。 想いの強さは誰にも負けない。 そしてその願いを、祈りを自分が叶えていくことが出来たなら、どんなにか幸せだろう。 「二人で、幸せになろうな。」 守っていこう、この存在を。 託された祈りとともに、ずっと。 それは、巡り廻る、小さな願いたち――。 |