WEB CLAP 11  小さな願い  Yuri & Josak



 深夜と言ってもおかしくない時間帯。
 隣に眠るヴォルフラムを起こさないようベッドを抜け出し、廊下へ滑り出る。
 そこから角を三つ曲がって。
「・・・・・・あれ、ヨザック?」
「坊ちゃん?どうしたんです、こんな時間に・・・・・・って、野暮ですね。」
 頬を染めて俯くユーリにヨザックが苦笑を零し、その細いユーリの肩に己が持っていた薄手のコートを着せ掛けた。
「冷えますから。」
「ありがとう。ヨザックはいつ戻ってきたの?」
「一刻ほど前です。それで今グウェンダル閣下のところに報告に行ってきたところだったんですがね。」
 そこでにやりと口の端を持ち上げると、ヨザックは目を細めた。
「聞きましたよー、日中の騒動。まぁた無茶して二階のテラスから飛び降りたんですって?王佐は汁塗れーの、隊長は顔真っ青だったって。あんまり無茶しちゃだめでしょーが。」
「もう耳ダコ。コンラッド居たから大丈夫だと思ったんだよ。」
 くつくつと楽しそうに笑うヨザックにユーリはぷぅっと頬を膨らませた。
「なるほどねぇ。・・・きつーいお説教、されたでしょう?隊長に。」
「今からかな・・・。結局あの後コンラッドが至急の用事で出掛けて、おれはグウェンダルに説教されたから。」
「そりゃ大変だ。明日の午前中はベッドの中ですかね。」
「ヨザック〜っ」
 そんな他愛ないやり取りに、ふとヨザックの目が穏やかな笑みを湛えて細められる。
「あなたには、感謝してもしたりませんよ。」
「ヨザック?」
 表情を改めた彼は姿勢を正すと、ユーリに向かって臣下の礼をとった。
 胸に手を当て頭を下げる姿に瞠目はするが、しかしユーリは何も言わずにその姿を見つめる。
 臣下としての彼が、王としての自分に頭を下げる。それは忠誠の証。
 言葉にしなくとも確かに彼は自分を信頼し、忠誠を誓っていると態度で示していて。

「・・・・・・聞くよ、グリエ・ヨザック」

 昔の自分だったらすぐさま顔を上げるよう懇願しただろう。
 でも今は違う。
 礼一つでもってして忠義を示す彼にそれをするなと言うことは、彼の気持ちを踏み躙ることと同義だから。
「下っ端の俺がそんなたいそれたこと言えやしませんが、・・・・・・あなたが王で良かったと、本当に心から感謝します。コンラッドを・・・ウェラー卿をまた、陛下のお傍へ拝命して頂き、あいつを信じていてくださって・・・・・・本当にありがとうございます。」
 そこで顔を上げたヨザックは、「坊ちゃん」と慣れ親しんだ名称を口にして。

 小さな、とても小さな願い事を一つ。

「・・・ツェリ様と一緒・・・っ」
 くすくすと笑みを零し、ユーリは顔を上げたヨザックを真っ直ぐに見つめて、「うん、おれでよければ。」と頷いた。


 願い事は二つ。
 けれど、思いは一つ。

 託された願いを抱きしめて、ユーリはヨザックに「おやすみ」と言った。